火事場の超・馬鹿力~絶対に負けない超逆転劇~

ハクセイ

拝啓、父さん母さん。僕は今、空を旅してます。

 拝啓、父さん母さん。ユーリです。


 春の暖かさがより身近に感じられるようになってきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。


 元気に過ごしていてくれることを心から願っております。体を壊さないように健康には気をつけてお過ごしください。


 僕が居なくなって、父さんも母さんも、さぞや慌てている事でしょう。


 もし僕が戻らないときは、ベッドの下の、さらに下の床の中に隠してある暗黒ノートを人知れず、もみ消していただけると大変助かります。


 さて、話は変わるのですが、


 僕は今、空の旅をしています。


 デスレッグさんこと、鳥さんに捕まってから早五日が過ぎました。あれ以来、僕は地上に降りれる機会を伺っていたのですが、あまりの密着具合に逃げれる算段が立たず、とりあえずそのまま運ばれてみることにしました。


 ご飯に関してですが、地上に降りた際に鳥さんが鹿やらイノシシやらを狩ってくるので、僕もご相反にあずかっています。


 水に関しても時々、鳥さんが水を飲みに降りることがあるので僕もついでに飲ませて貰っています。


 こうして慣れてみると、空の旅というもなかなかに楽しいモノです。


 自ら動かずとも自動的に手に入る食材に、地上に居ては決して見ることのできない美しい空の景色。


 なかなかどうして、良い感じです。


 あと、運ばれる時の体制ですが、鳥さんによって違います。
 基本直立の姿勢で、あとは鳥さんの好みで、肩掴み、胴掴みと変化します。
 あまり負荷もかかっていないので、意外と楽です。


 寝るときに首が痛くなることがありますが、まぁその程度です。


 そして鳥さんですが、世代交代が激しく、今は四代目です。


 初めは上半身が人間の鳥さんだったのですが、攫われて二十分後に本物の鳥さん倒され、今度はその鳥さんに運ばれることになりました。


 そしてなぜかその後も、空の魔物たちが僕を巡っての争奪戦になりまして、二代目は、二代目よりも大きな三代目に倒され、そして三代目も、三代目よりも大きな四代目に倒されました。




 いやぁ、魔物にすらもモテてしまうとは……やっぱりイケメンというのは罪ですね。




 そしてまた、世代が交代し、五代目になりました。


 もうここまで来ると、最初の鳥さんの十倍ほど大きく、背中に乗れそうなほど大きいです。


「………。」


 なんだか本当に乗りたくなってきました……。
 実をいうと、初めて、五代目鳥さんを見たとき、
 僕は……一目ぼれをしました。


――あの、ふわふわな毛並みに


 一つ一つがしっかりと立っていて、ファサファサと風に揺れる羽毛。
 間違いありません。あれは、最高級の羽毛だと思うのです。


 あ…あああ。……ダメです。


 今すぐにでも、あの天国に飛び込んで、モフモフをしたいです。


 ……おっと。なにやら線を越えそうな気がした。
 危ない。危ない。


 でも、あの背中に上りたいのは事実。
 実を言うと、最近掴まれてばっかりだったから飽きてたのだ。


 さて、こういう時は、素直にお願いするのが一番。


 重要なのは、がっつき過ぎないこと。


 あくまでフレンドリーな感じで接するべきだろう。
 少し緊張した面持ちで僕は聞く。


「あの……鳥さん。ちょっと背中に登っても良いかな?」


 僕の心臓はドキドキだ。


 なるほど、これが告白をした者の気持ちか……。
 これは確かに勇気がいるなぁ。


 肝心の鳥さんには、


「クエ??」


 通じなかったか。
 まぁ、人の言葉だし、通じないのは当たり前か。
 仕方ない。ここは鳥さんに合わせよう。。


「クエクエ(鳥さんやい)、クエクエクエクエ(僕を背中に乗せて)、ピーピヨ(欲しいな)」


 お。我ながら、上手く気持ちを表すことができた気がする。


 特に最期の部分の「ピーピヨ」は自信がある。
 会心の出来だ。


 これは通じたんじゃないか?


 僕の声を聴いた鳥さんは……黙って力を抜いてくれた。


 やった。気持ちが通じたぞ。
 鳥さんが聞き分けのいい鳥さんで良かった。


 足から離れた僕はそのままよじよじ登り目的地の背中まで行く。


 道中、触れる羽毛がふわふわしてて気持ちがいいと考えてしまうのは仕様のないことだ。


 そして、僕は天国へ到着した。


 右も左も下も、モフモフ……。


 ……な、なんてことだ。僕のこだわりのマイベットよりもしっくりくるだと……。。
    
 これは新発見だ。


「これは……良い。良すぎる……。」


「ふぁ……。」


 少し眠たくなってき……いけない、いけない。こんな所で寝ちゃいけな――


「……zzzzzzz」


 ♢


 視点ーーエリノラ・フィリドール


 私が町を出てから五日が過ぎていた。


 王都まで行く道中の休憩地点に到着した時、なにやら軍の人たちが慌ただしくしていた様子だったので、近くにいた兵に話を聞くと、最近ハーピによる人の誘拐が多発していてその対応に追われているとのことだった。


 普通、魔物は獲物となるもの捕え捕食する。


 ハーピーもその例外ではなく、れっきとした魔物。


 だが、ハーピーだけは少し違い動物を食べないのだ。
 そのため、ユーリが生きている可能性はまだ大いにある。


 では、何のために人を攫うのか?


 その理由は、ハーピーが龍のだからだ。
 龍は生き物の感情を食べる。
 特に好んで食べるのはだと言われている。人は感情を理性でコントロールする独自の進化をしてきた。


 そのため人は、嫉妬。恨み。共感。と言った特有の感情を併せ持っている。


 他の生き物とは違った感情を持つ我々を、龍が好きになってしまったのは、ある意味必然なのかもしれない。


 そして、感情を食べられた人間は廃人となり、感情が戻ってくることもないまま再起不能になるらしい。


 このパーピーの特性と連れていかれた方向が北ということから、連れていかれた場所は、北のヘンデル山脈と言われている。


 そして、それはこの国のお偉いさんの手によって正しいとされ、具体的な位置まで分かったために、今、龍を討伐するための部隊編成を急遽行っている最中だ。とその兵士はその説明をしてくれた。


 龍の住んでいる場所が判明したことは驚きだったが、ハーピの特性のことは知っていた。


 ユーリが町の外に出たがっているのを知っていて、阻止して来たのはそういった事情があったからだ。


 安全な町の中に留めて置きたかったのだ。


 ……だが、現実は、そう思い通りに行かないものらしい。


 つい先ほど隣町で金髪の青年がハーピらしき魔物に攫われて行方不明になったと聞いた。


 先程の兵士から知りえた情報だ。


 私の知る限りあの町で金髪の青年など一人しか知らない。


「ユーリ……」




 私は自分の顔から血の気が引いていくのをはっきりと感じた……。






 ♢




 ここ一年の間に急増したハーピによる誘拐事件。


 そして、その被害者である自分。


 今回、ヘンデル山脈を住処としている龍は、混龍ジャバウォックの可能性が高いということだった。


 情報源は、龍の居場所を明らかにした人物と同じ人だと伝えられている。


 そして私は今、混龍ジャバウォックの討伐隊に参加をしている。


 王都へ向かう予定だったが、この町で討伐隊に入ることにした。


 その話をした兵士からは止められたが、私は隣町の剣王際で優勝をしたということを伝えると、この部隊の上役の人に話を通してくれ、参加させてもらえることになった。


 本来ならば、今すぐにでも、ユーリを助けに行かなくてはいけないのだろうが、ユーリが捕まっているからといって、一人で向かうようなバカな真似を私は出来ない。


 一人で戦うよりも大勢で。
 自分よりも実践経験のある人たちと共に行動をした方が私自身生き残れる確率もユーリを助けられる確率も上がる。


 ……そう考えての行動だ。


 現にここには、家族を攫われた人や廃人となってしまった人たちの被害者、龍を倒すために日頃から腕を磨いてきた人達が大勢いる。


 そして、似た境遇の者がいるせいか、この殺伐とした雰囲気は、今の私には、心地良かったのだ。


 だが、同時に変に冷静な自分がいる事が、酷く恥ずかしかった。


 本当にユーリを心配しているのなら、大切なら、きっと何に替えても今すぐに助けに行くべきだと思うからだ。


 実を言うと、ユーリはあぁ見えて感情が希薄だ。


 私と話しているときは騒がしくしているが、私以外の人と騒いでいる所を私は見たことがない。


 昔から何を考えているのか良く分からない子で、いつも自分の感情を表に出さない。


 私からの無理難題にも「分かったよ」の一言で文句も言わずにこなすぐらいだ。


 決定的なのは、町の男どもから変な嫌がらせを受けているというのに、怒る素振りすら見せないことだ。


 あまりに感情が読み取れなかったので、一時期は病気?と本気で心配したほどだ。


 だから、ユーリが大きな反応を取ってくれることが……嬉しかった。
 ユーリが感情を感じさせる反応をすると私は安心できて、ついついやり過ぎてしまうのだ。


 そう。私にだけ、ユーリは私にだけはそういった反応をしてくれるのだ。




 …………待って、私の前では?




――もしかして、ユーリは私が心配しているのを知っていたのではないか?


 私を心配させまいとわざと大きな反応を取っていた?
 ……そんな訳がない。そんな訳がないが、そう考えると、腑に落ちる自分がいた。


 私はなんて、なお姉ちゃんなんだろう。


 こんな簡単なことに、今になって気づくなんて。


 不甲斐ない自分が情けない。


 ユーリのことを思っているようで、自分のことばかり……ユーリは私を安心させるために演技までしてくれていたと言うのに。


「こんなモヤモヤする別れ方は嫌ね……」


 言葉にすると、なおさら強く感じる。
 こんな別れ方は嫌だと。


 神様、もしこの声が聞こえているのならば、どうかユーリのことを救ってください。


 どうか、ユーリが生きてくれますように……。
 例え。廃人になっていようが、生きていてさえくればただそれだけでいい。


 だってユーリは私のたった一人の……


「私の弟なんだから」


 私は新たに決意し、その一歩を進める。


 待ってて。ユーリ。
 お姉ちゃんが、この命に変えても必ずあなたを助けてみせるから!



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