フォーの聖所

ikaru_sakae

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「ん~。そうか。これってたぶん、マジックチャントの、一種って感じ?」
「チャント? それは何ですか?」
 あたしのそばで、リリアがこっそりささやいた。
「敵や味方の状態を変える、魔法の歌スキル、みたいな感じだと思う。今のこの場合は、鎮静効果とか? そっち方向の、マジックチャントっぽい。なんかでも―― 魔法とかスキルとか抜きにしても。とってもいい歌ね。声もきれい。聴き惚れちゃう」
「なんだかドイツ語のようにも聞こえますね」
「…そうなの? リリアってば、あなたドイツ語できる人??」
 あたしはちょっぴり尊敬の眼差しで、リリアの顔をのぞきこむ。
「いえ。なんとなく、です。音が、そんな感じに聴こえる気がするだけです。あたしも、歌詞はぜんぜん、わからないですから」

「さて。ひとまず、サーペントたちの攻撃モードは、解けたと思います」
 シーマが―― 人形のシーマが、歌をとめて。音もなく、あたしのそばまですべるように移動してきた。
「ほら、見てください。帰っていきますよ。ほら、」
 船のへりに降り立って、シーマが水の方を指さした。
 大蛇たちが―― 潜っていく…? ぜんぶそろって、水底の方に。巨大な体をゆすって、くねって。けど―― 巨体に似合わず、とても静かに。ここの水面にまでは、わずかの波も立てない感じで。はるかに澄み切った深い深い水の底へ。散っていく。戻っていく。気の遠くなるような、深みの底へ――


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