フォーの聖所

ikaru_sakae

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「ん。いや、ちょっとね。今、言ってみただけ」
「もしあれでしたら、いま、海のどこかに向けて、撃ってみてもいいですよ?」
「いや。撃たなくていい。というか、たぶん、リリアはそれ、撃たない方がいい」
「…そうですか?」
「うん。たぶん、あれだね。役割とかって、それぞれ違ってて。ほんとの意味での武器で戦う、まりあみたいな役目もあって。でも、あたしとか。そしてリリアも。たぶん、また、きっと、別の何かがあるんだね。そこには別の戦いが。なんか今は、そう思う」
「別の――」
「うん。戦うっていうことは、何も、殴ったり、撃ったりするだけじゃなく。きっといろんな、戦い方がある。だから。リリアは、たぶん、撃たない方がいい。そういうキャラじゃ、ないんじゃないかな。たぶん。わからないけど」
「わたしはたぶん、ゲームとかは。あまり、向いていないと思います、」
「うん、」
「でも。ほかに何か、できることがあると思います」
「うん。」
「アリーさんも。」
「わたし?」
「はい。きっと何か、たくさん、できることがあるでしょう?」
「ん、どうかなぁ?」
「ありますよ」
「ある?」
「はい。あります。必ず」
「うん。そうかな。そう、思いたい」
「あります」
「うん、」
 暗くなりゆく世界の中で、リリアとわたしは、
 固く、しっかりと抱き合った。
 波が、舟を揺らしたけれど。
 風が、二人に吹きつけたけれど、
 二人は固く、体をよせて。
 長い時間、その海で。
 どこでもない、そこで――
 リアルと虚構と、そのほかのどこかの、ただ中で――
 ずっとずっと、そこで。
 果てしない世界の片隅の、その名前のない海の上で。
 ふたつの魂は、いま、とても、近く。
 とても二つは、近い距離で。
 それぞれの温度を、とても近くで、感じていた。
 とても近くに。もう、この指で触れられる、その近い場所に。


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