フォーの聖所

ikaru_sakae

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「会いにきてくれて、うれしい。またねえさんと、少しでも、話せて」
 光が少し、瞬いた。一瞬、光は強くなり、
 そしてまた、もとの明るさにとどまって。
「僕、大好き、だったよ。いつも、優しかった、サクヤねえさんのこと」
「イツキ、」
「なんだか急に、二人の暮らしは、終わってしまったけれど。もっとほんとは、長い時間を、僕たち、一緒に、生きるつもりで。いたのだけれど。でも―― だけど―― そこであったこと。一緒に二人でできたこと。いっぱい、二人で笑えたこと。二人で一緒に――」
「もう言わないで、イツキ。全部わかってる。全部、全部、わたし、わかるから!」
「うん。だから。その、輝いていた時間を、しっかり、これから、見てほしい。それは、とても。きれいに、光っていたでしょう。輝いていた、でしょう。そのことが、大事、だよ。今には僕にも、それがわかる」
「イツキ、」
「ね。光を。いつも見ていて欲しい。暗いものではなく。明るい、記憶。二人でたくさん、笑ったことを。ね。それを、あっちに、持って帰って。そうじゃないことは、もう、ぜんぶ、過去の―― 過ぎたものたちに、まかせて。ね? 悲しみではなく。憎しみではなく。あったかかった、二人だけの、思い出を。それをあっちに、たくさん持って帰って欲しい」
「うん。うん。持って、帰るよ。ちゃんとわたし、持って帰る!」
「うん。そうして欲しい。ねえ、ねえさん――」
「何?」
「時間が、もう、あまりない。でも。僕は、消えて、いくけれど。ほんとに消える、わけではない。ただ、次へ、移ってゆく。続いて、ゆくんだよ。そのことだけは。わかって。続いて、ゆくのだから。だから、そんなに泣かないで」
「イツキ! だめ! まだよ! まだ行ってはダメ!」
「ねえ、さん。サクヤねえさん」
「イツキ!」
「僕の、ねえさん。大好きだった。たった、ひとりの。世界でいちばん、好き、だった――」
「イツキ!」
「ありがとう。ここまで会いに、来てくれて。最後に、話せて。最後に、言葉を――」
「イツキーーーッ!!!」

 そして光は、消えてゆく。
 光の形は、消え去った。光は崩れ、闇に還る。
 少女の腕には、もう何も残らない。何も重さを感じない。
 少女は涙をしぼりだす。少女は声を、しぼりだす。
 涙が落ちて、落ちて、闇の底へと散ってゆく。
 涙はどこに、ゆくのだろう。少女の叫んだその声は、
 いつかどこかに、届くのだろうか。響くのだろうか――

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