フォーの聖所

ikaru_sakae

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 しかし今、かすかな不愉快の感情をイーダの中に呼び覚ましたのは、何もその、二人が属するジョブの種類だけが理由ではなかった。ヤンカ・ヤンカが連れてきた二人の客人の、その、驚くべきレベルの低さだ。それこそが理由。
 ひとりは13、もうひとりに至っては、レベル3。
 いま戦時にある、この最北の島を舐めている、という強い気持ちが最初に浮かんだ。が、しかし、彼らはあくまでゲストだ。この島の住人が招待を出し、むこうから、はるかな距離を来てくれたのだ。そして、島の住人の客は、すなわち島の主、フォーの客人、でもある。
 この点をあらためて意識して、イーダは、最初に感じたなかば本能的な嫌悪感を、自分の意志でぬぐいさる。彼女は意識して口元にかすかな微笑を貼り付けて、黒青に鈍く光るイベリス鋼の螺旋階段を踏んで、地上のレベルにまで下りてきた。 

「ずいぶん早かったね、ヤンカ・ヤンカ」
 イーダが最初に口をひらいた。
 水におおわれた石の前庭の中央に立ち、涼やかな立ち姿で三人を出迎える。
「てっきりもっと、家族団欒(かぞくだんらん)、とか? そういう庶民的な何かを楽しんでるのかと」
「ふん。あんたに甘いところを見せたくないからね。つい、意地になって速攻で来ちゃったわよ」
 ヤンカは言って、まっすぐイーダのそばに歩み寄る。
 イーダが差し出した手を、バシッとヤンカが勢いよく握った。
「東の浜では、よくやってくれた。評価してるよ、ヤンカ・ヤンカ」
「ん。ま、そういうあんたも、ネイ川の方ではけっこう暴れたようね」
 ふたりは強い視線をかわす。笑いと、敬意と。それ以外の、何か強いもの――
 信頼、と。普通は言ってもいいものだが。
 しかし二人は、その澄み切った言葉をそのまま受けいれるほどには、それほど素直な性格ではない。ただ、「こいつだけは、信じられるな」と。お互い、心の中では認めている。もちろん言葉で、それを相手に伝えるつもりもない。
「西の塔の詰所に、いま6人が来ている。」
 イーダが、薄紫の髪を風に流した。とぎれない雨が、髪の表面で小さな水滴となり、すぐに砕けて消えて行く。ここでは雨は、本当に髪を濡らすことはない。あくまでビジュアル上のエフェクトだ。
「あと14人は、まだね。だから少し時間がある。必要なら、休息を。会議を始めるとき、鐘を鳴らす。それを合図に、詰所に来て」

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