フォーの聖所

ikaru_sakae

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【 メ・リフェ島北部 
 「色のない水」北端 】

 「色のない水」を踏んで、ヤンカの一行が聖所に近づいたとき、イーダは西の塔の上層、南側に張り出したテラスに立ち、少し上から一行を見ていた。先頭を行くのは短い金色髪、赤系統のバトルドレスに身を包んだヤンカ・ヤンカ。イーダの戦友であり、もっとも頼れる島守りのひとりとして、好意にも似た感情をひそかに抱いてはいる。なのでイーダの表情は、この時点ではかすかな微笑と言えるものだった。
 しかし彼女の微笑は、まもなく消えることになる。問題は、あとにつづく二人の少女だ。ひとりは乱れた赤色髪で、軽装のチュニック、手には赤のオーブの杖。ビジュアルから判断すると、炎系の魔法を操る「メイジ」に違いない。そのうしろ、戦闘とはおよそ不釣り合いな可憐な容姿の銀色髪の美少女が続く。エルフ系のとがり耳、背中に背負ったロングボウが、彼女は「アーチャー」だと自ら告げている。

 もとともとイーダは、自分の肉体を武器とせず、もっぱら遠距離の魔法攻撃に頼るメイジを、心のどこかで軽蔑している。「チートを使う虚弱なやつら」と。そう思っている。また同様にアーチャーに対しても、あまり良い感情は持ってはいない。接近戦にめっぽう弱く、距離をつめれば途端に無力化されるアーチャー戦士を、イーダはひそかに、毛嫌いしていた。「弱いくせに、小賢しい」と。じつは過去の戦闘で、ロングボウで固めたアーチャー兵団に対し、接近戦こそ我が戦場と自負する「三本カタナのイーダ」は苦戦を強いられ、敗北に近い戦いを経験した。その時の苦い記憶が、アーチャーの戦力をリスペクトする方向には向かわずに、ただ、「忌わしいやつら。うっとおしいやつら」と、ネガティブな感情だけが残ってしまった。このあたりに、イーダの、戦士としての心の弱さがあるのだが。このことにはまだ、イーダ自身は気付けていない。

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