フォーの聖所
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「また、成形の儀式ですか。体がよく、もちますね」
声が鳴った。
儀式を終えて朽ちかけた体を引きずるように階下の謁見の間に戻り、
しばしの休息の淵の底でまどろんでいた、小柄な少女の肉体を持つ、聖所の主。
フォーが、ようやく視線を上げた。
そこにひとりの島守りの娘が立つ。
薄紫の長い髪を無造作にたなびかせ、体の線にぴたりと合った黒の短衣は、きわめて東洋風のデザインだ。三つの「カタナ」を背中に帯びたその長身の娘。
名前はイーダ。「島守りの長」の称号を持つ。その東洋風の剣を振るわせたら、イーダを凌駕できる相手はおそらくいない。今まで誰にも負けたことはないし、これからも負けるつもりはない。娘はそのように、とても単純に考えている。
「東浜、シュメーネ河口で戦っていたメルダとウィルジーナから、報告がありました」
「聞こう、」
フォーが奥の台座からおりてきた。流れたなびく黄金の髪が、薄暗い謁見の広間に光を放った。先ほどの儀式の疲労が、ぬぐいきれない重みとなってフォーの表情を鈍らせている。が、特に気分が悪い、ということもない。ただひどく、疲れているだけだ。
「報告。島の脅威は排除されました。グマの侵攻軍は全滅、です」
「うむ。よくやってくれた」
「しかし、まだ終わっていないんですよ。これがね。」
「と、言うと?」
「増援が。海を超えて、十六個師団の規模で軍船団が新たに接近中との情報」
「多いな、それは」
「敵も、飽きないですね。そして懲りない。まあでも、今回レベルの兵士らであれば、我々の敵ではありません。ただ、それを上回るレベルの兵で軍勢を組んで攻めてきた場合には――」
「ちと、やっかいだな」
「はい。あまり楽観はできません。まあ、だからと言って悲観もしていませんが」
「うむ。護るしかあるまい?」
「はい。その通りです。シンプルです。選択肢はない。戦いましょう。そして勝ちましょう。勝てます、おそらく、私たちは。」
「島守りを、召集。」
フォーが、円形の大窓の外に煙る、水に覆われた大地の彼方に。感情の読めない、金色と深い赤の入り混じった小さな瞳をそちらに向けた。
「連戦につぐ連戦で申し訳ないのだが。私には、おまえたちを頼る以外に術がない」
「ご心配には及びません。我ら、全力を尽くしてお護りしますよ。ではすぐ、召集をかけましょう」
「しかし、あれだな。ヤンカは、今――」
思い出したように、フォーが言う。
視線を広間の中に戻し、初めてイーダの方を見た。
「妹と面会中、ですね」
「む。大事な時間だな」
「でも。戦力的に、ヤンカが抜けるとキツいです」
「では、呼ぶか?」
「はい。ちょっぴり、気の毒ですが――」
「ふむ――」
フォーは少し、迷ったようだ。視線を下げて、自分の両手を、右、左、右と、かわるがわる目で追った。まるで手の中に残った、蝶たちの羽根の軽さ、あるいはその羽根の重さ。それをあらためて、記憶の底から思考の淵へと呼び戻すかのように。
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「また、成形の儀式ですか。体がよく、もちますね」
声が鳴った。
儀式を終えて朽ちかけた体を引きずるように階下の謁見の間に戻り、
しばしの休息の淵の底でまどろんでいた、小柄な少女の肉体を持つ、聖所の主。
フォーが、ようやく視線を上げた。
そこにひとりの島守りの娘が立つ。
薄紫の長い髪を無造作にたなびかせ、体の線にぴたりと合った黒の短衣は、きわめて東洋風のデザインだ。三つの「カタナ」を背中に帯びたその長身の娘。
名前はイーダ。「島守りの長」の称号を持つ。その東洋風の剣を振るわせたら、イーダを凌駕できる相手はおそらくいない。今まで誰にも負けたことはないし、これからも負けるつもりはない。娘はそのように、とても単純に考えている。
「東浜、シュメーネ河口で戦っていたメルダとウィルジーナから、報告がありました」
「聞こう、」
フォーが奥の台座からおりてきた。流れたなびく黄金の髪が、薄暗い謁見の広間に光を放った。先ほどの儀式の疲労が、ぬぐいきれない重みとなってフォーの表情を鈍らせている。が、特に気分が悪い、ということもない。ただひどく、疲れているだけだ。
「報告。島の脅威は排除されました。グマの侵攻軍は全滅、です」
「うむ。よくやってくれた」
「しかし、まだ終わっていないんですよ。これがね。」
「と、言うと?」
「増援が。海を超えて、十六個師団の規模で軍船団が新たに接近中との情報」
「多いな、それは」
「敵も、飽きないですね。そして懲りない。まあでも、今回レベルの兵士らであれば、我々の敵ではありません。ただ、それを上回るレベルの兵で軍勢を組んで攻めてきた場合には――」
「ちと、やっかいだな」
「はい。あまり楽観はできません。まあ、だからと言って悲観もしていませんが」
「うむ。護るしかあるまい?」
「はい。その通りです。シンプルです。選択肢はない。戦いましょう。そして勝ちましょう。勝てます、おそらく、私たちは。」
「島守りを、召集。」
フォーが、円形の大窓の外に煙る、水に覆われた大地の彼方に。感情の読めない、金色と深い赤の入り混じった小さな瞳をそちらに向けた。
「連戦につぐ連戦で申し訳ないのだが。私には、おまえたちを頼る以外に術がない」
「ご心配には及びません。我ら、全力を尽くしてお護りしますよ。ではすぐ、召集をかけましょう」
「しかし、あれだな。ヤンカは、今――」
思い出したように、フォーが言う。
視線を広間の中に戻し、初めてイーダの方を見た。
「妹と面会中、ですね」
「む。大事な時間だな」
「でも。戦力的に、ヤンカが抜けるとキツいです」
「では、呼ぶか?」
「はい。ちょっぴり、気の毒ですが――」
「ふむ――」
フォーは少し、迷ったようだ。視線を下げて、自分の両手を、右、左、右と、かわるがわる目で追った。まるで手の中に残った、蝶たちの羽根の軽さ、あるいはその羽根の重さ。それをあらためて、記憶の底から思考の淵へと呼び戻すかのように。
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