フォーの聖所

ikaru_sakae

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「ううん。都合とか、どうでもいい。わたしは許す。ぜんぶすべて、許します。というか、何も悪い気持ち、ひとつも何も、おねえちゃんに、持ったりしてなかった。許すとか。そんな何か、悪い何かを、おねえちゃんは、したわけじゃない。ぜんぜん何も、していない」
「そう言われると、ちょっとはあれね。心がちょっぴり、しんみりするね」
「おねえちゃん、」
「何?」
「もう、どこにも行かないで」
「…カナナ――」
「もう、ずっと、一緒にいよう。ずっとずっと、一緒に。ね?」
「……それはムリ」
「どうして?」
「面会の時間は、限られている。あんたはあっちに、戻らなきゃいけない」
「なぜ?」
「なぜ、とかない。どうして、もない。だってあんたは、まだ、あっちで、生きているのだから」
「お姉ちゃんも、ここで、今、生きてる」
「そうね。生きている。それは正しい。でも、ここはたぶん、移行する場所、だよ」
「移行する…?」
「そう。世界から世界へと渡っていく魂が、一時のあいだ、羽根を休めるんだ。ここはそのための場所。フォー様が、そういう孤独な渡り鳥たちのために、束の場の、休息の場所を、ここに作ってくれた。たぶん、そういうことだと思う。ここに誰かが、永遠にとどまることはできない」
「でも。しばらくなら、一緒に、ね?」
「今がたぶん、その時間よ」
 姉は小声でそう言って、右の腕で、わたしの背中を強く抱いた。
「今、一緒だから。今の、これ。この時間。これがきっと、あたしがあんたに差し出せる、精一杯の何かだよ。だから、カナナ――」
「ずっと一緒に、いてほしい」
「ムリだ、それは」
「ムリでもいい!」
「ムリだ」
「ムリでも!」
「ったく。わがままな、駄々っ子じゃないか、それじゃ」
「わがままでもいい! おねえちゃんと、一緒にいたい!」
「カナナ、」
「大好きだよ、おねえちゃん。ほんとにほんと、大好きだ」
「あたしも好きだよ、カナナ。好きだった」
「過去みたいに、言わないで」
「そうだね。うん。そこはちょっと、悪かった」
「おねえちゃん、」
「カナナ、」
「まりあ、おねえちゃん、」
「カナナ、」「おねえ、ちゃん――」

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