フォーの聖所

ikaru_sakae

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「なんか、死者と会うとかって。やっぱりちょっと、怖い気がする。会って、何、話せばいいんだろう。それって相手は、もう、死んじゃっているわけだし――」
「じゃ、会いたくないですか?」
「ん。いや。会いたくないかって言われたら、やっぱりちょっと、会いたい。会って、じっさい、確かめたいよ。何がどうなって、ここに姉貴が、なぜ、まだいるのか」
「でも、わたしの弟は――」
「弟さん。まだ確認がとれない、って言ってたね」
「わたしは会いたいと思います。会って、もう一度、声がききたい。あの子が話す、あの声が」
「んん。見つかると、いいよね。はやくデータの照会がとれて」
「会いたい。です」
「ん。」
「会って、いろいろ、会って――」
 リリアは、静かに泣いていた。最初は静かに、泣いてた。でも、だんだん、しゃくりあげるみたいに、声が―― 大きな嗚咽をあげて、リリアがボロボロ泣いていた。
 わたしはそっちのベッドに行って、泣かないで。って、言って、抱いたり、頭をなでたり、してあげた方がいいのかなぁ。って、思ったりもしたけど――
 でも、しょせんはわたし、その子の、弟、ではない。妹ですらない。姉でもない。
 そういう何でもないわたしに――
 その子のために、いったい、どんな言葉を、かけてあげる資格があるというのだろう?
 それを考えると―― 言葉が、出てこなかった。
 大丈夫よ。とも、言ってあげれない。じっさい大丈夫かなんて、誰にもわからない。
 泣かないで。って、言ったって。今はたぶん、むしろ泣く時なのかもしれない。
 泣くのが悪いとか、誰が決めたの。泣くときには、たぶん、泣かなきゃダメだったりするのよ、きっと。

 とか、
 ちょっぴりひねくれ者かもしれない。けど――
 わたしは結局、何も言わず――
 ただ、静かに、そこで無言で、ただ、隣のベッドで、横になっていることしか。わたしには、そこで、できなかった。わたしには、それしか。
 でもやがて――
 そのまま、泣きながら、
 リリアは眠ったみたいだった。

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