フォーの聖所

ikaru_sakae

page73

「体はあくまで、入れ物です。わたしの心が、今ここで、新しい入れ物を与えられた。だからここに、わたしはいます。わたしたちは。生きています。わたしたちはここにいます。と、言ったらそれは、変でしょうか?」
「えっと。つまりここは、この島は―― 死んだ魂の、受け皿―― 死者の魂の集まるところ―― つまりそれって、天国ってこと?」
「さあ? でも、天国っていうのは、もっときっと、特別なところではないでしょうか」
 シーマが言った。音もなくポーチの床から浮上し、わたしの肩の左、籐椅子の手すりの部分にふわりと乗った。
「ここは、なんというのかな。あらゆるものが、普通です。それほど何か、リアル世界と、極端に違うことはないです。もちろん、ちょっぴり飛べたりとか、少し物理の仕組みが違うこともあるけれど――」
「ここが何とか、名前はあまり、大事ではないと思います」
 エルナが言った。彼女はずっとむこう、夜の庭のどこかを見ている。その目は透きとおるように薄いブルーで、そこにはあまり、感情は読めなかった。でも、特に冷たい感じでもなかった。そこには少しの、温度はある。生きて、いるのだと思った。
「天国と言えば、そうかもしれない。ゲームといえば、これは単なるゲームです。それ以上の何かではない。ですが―― そのゲームの中に、とてもたくさんの、綺麗なものがあります。小さな子たちの笑い声があります。美しい景色があります。雨もふります。雪もふります。雪の冷たさを、この手に感じます。それは全部、リアルです。バーチャル世界の北の果ての、小さな島ですが――」
「でも。みんなここで、僕たちなりに、毎日生きてるんですよ」
 シーマが言った。そしてかすかに、笑った。人形らしい、青みがかったシルバーの瞳を、ちょっぴり細めて。

###########################

「フォーの聖所」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く