フォーの聖所

ikaru_sakae

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「あまり怖がらせてもいけないと思って、今まであえて、言わなかったですけど。僕も、姉のエルナも、もう、リアルでは死んでいます。この家の他の子たちも。みんなそうです。ここでは誰も、リアル世界の一般的な意味では、生きてはいないから」
「えっと――」「それってつまり――」
 言葉が、うまくつながらない。
 わたしの思考はぐるぐるまわって、シーマが今言った意味を高速で考える。
「じゃあ、みんな、幽霊とか、死者とかってこと? この島の住人キャラが、すべて…?」
 ようやくわたしの口からその質問が出た。
 声は乾いて、なんだか自分の声には聞えなかった。
「死者といえば、ええ、そうですね。私もシーマも、リアル世界では一度、死にました。そちらにはもう、肉体はありません」
 エルナがしずかに言葉を投げた。誰もしばらく、口をひらかなかった。
 風が少し吹いて、前庭の夜の花畑がかすかにそよいだ。庭草の上の暗い空間を、いくつものホタルが舞っている。
「でも。幽霊かと言えば、それは少し、違うかもしれませんね」
「どう―― 違うのですか?」
 かろうじて聞き取れるくらいの細い声で、リリアがきいた。
「僕たちはここに、生まれ変わったのだと。そういう風に思っていますよ」
 シーマが言った。声はいつもと変わらない。落ち着いていて、余裕があって。
「ほら、手を、触れてみてください」
 そう言ってシーマが、自分の腕を―― かぼそい、少女のような白い人形の腕をこちらに差し出した。わたしはちょっぴり迷って、でも、おそるおそる手を伸ばしてその腕にさわった。
 冷たい、しかし、かすかに温もりのある木の感触がした。人形の腕。木製の腕。
「ね? 感じるでしょう? 僕の肉体は、いまここにあります。もちろんバーチャルですが―― でも、確かに見えるし、触れるし。感じることもできる。だからたぶん、僕はまだ、消えてはいない。ここにいますよ、僕は。この世界で、また、前の世界とは違った生を、今、生きている。だからこれは――」
「幽霊、と。言えばそうかもしれません。でも――」
 エルナが言葉を引き継いだ。

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