フォーの聖所

ikaru_sakae

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「でも見ての通り、みんな、ここで楽しく暮らしていますよ。特に難しいことは何もありません。それぞれの子たちに、自分の家があって、自分の部屋やベッドもあって。特に何か、学校に行くとかそういうこともありませんので。日が暮れるまで、毎日それぞれ、好きなことをやっていますね。ほら、みんな、楽しそうでしょう?」
 そういってエルナが視線をむこうに送った。
 人形の子供たちが、今はそちら、噴水の水場で歓声をあげながら水遊びに興じはじめた。
「えっと。。あの、ちなみにエルナは今、何歳なの?」
「わたし? わたしは十二ですね。弟のシーマは十歳です」
「そっか。。二人とも、あれね。なんかすごく話し方がしっかりしてるから、てっきりもっと上かと思ってたけど―― まあ言えば、二人も、まだ子供の範疇ね…」

 そこからさらに崖沿いの路地を歩いて、急な石の階段をのぼり、そこからさらに、坂を登った。かなり高い場所まで来ていて、足を止めてふりかえると、渓谷の両側の岩壁をびっしり埋めるようにして、ウトマの街の白い家々が一望できた。何カ所かに、渓谷の両側を結ぶ白い優雅な石の橋がかかっているのも見える。
「工房都市というのは、あくまで昔の名前ですね。」シーマが、ずっと下の白い街並みを遠い目で見ながら言った。「初期の初期には、ここにはモノづくりとか手仕事の好きな人たちばかりが、集まって街をつくっていたようです。そのときついた街の名前を、今でも使っているわけです。でも――」
 谷をふきあがってくる水の匂いのする風が、シーマの服のえりのところを、かすかにはためかせている。
「フォー様が島に来てからは、ここは子供の街になりました。今でもたぶん、その、何かモノづくりをやっている工房は、きっとあるとは思うのですが。でも僕もまだ、そういう工房を実際に見たことがないですね。街はとても広くて。まだ僕の知らない場所もたくさんあります」

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