フォーの聖所

ikaru_sakae

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「島に来てから、時刻表示がされなくなったことに、お二人はお気づきですか?」 
 シーマは言った。それから少し移動して、古い石橋の欄干の上にふわりと着地した。
「時間の流れが、ここでは違っています。おそらく、お二人のもといたリアル世界の一分間が、ここでは、えっと、何日だったかな。たぶん三日とか、それくらい。ビジターの方は、たぶんそれくらいの時間です。ですから、ここに10日、滞在したとしても―― もとのリアル世界では、ただ数分が経過したに過ぎない、ということになります」
「まさか。そんな技術、あるわけないじゃん!」
「でもまあ、現にいま、ここで運用されていますからね… まあとにかく、ひとまずトイレとか、空腹のことは、ここにいる間は忘れてください。特に問題ないですから。前にも外からビジターの方が来たけれど、その時も問題ありませんでした」
「で、でも。ログアウトできないのは、わたし、こまります!」
 リリアが必死で食い下がる。
「だいたい、いつ島を出られるかも、まだわからないでしょう。このままずっと、ログアウトできずにいたら――」
 言葉を一瞬とめて、それからリリアが、ハッと顔を上げた。リリアの端正な金の瞳が、とつぜん大きく見開かれた。
「あの。シーマさん、」
「はい。何でしょうか?」
「もし、もしもの話ですけど―― あくまで仮定の――」
「はい。どのような仮定でしょう?」
「この、今のログアウトできない状態で―― もしも、この島でダメージを受けて、HPがゼロになった場合――」
「あ! それってなんか、ヤバそうじゃん!」
 わたしも瞬時に理解した。
 離脱が不可能な、このフィールド。ここで、でも、強制離脱とも言っていい、ゲーム内の「死」を迎えたキャラクター。それはいったい、どうなってしまうのだろうか。なんだか嫌な予感が、むくむく心に広がっていく。

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