フォーの聖所

ikaru_sakae

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「ああ、ごめんなさい。ちゃんと説明、してなかったですね」
 シーマが重さを感じさせない浮遊モーションでわたしの正面に移動してきて、申し訳なさそうに右手で頭をかいた。
「ここでは―― つまり、この島では、ということですが。ログアウトは、基本的にできないですよ」
「できない?」「え? それは、どういう――」
 わたしとリリアは絶句した。その次の言葉が、なかなか浮かんでこない。
「仕様、というのでしょうか。ゲームシステム上の制約、というのかな。いったん島から出ない限り、ログアウトの選択はできません。また逆に、外からここに直接ログインしてくることも、それも無理な仕様になっています」
「げげっ!」「そんな、まさか――」
「ちょっと! 冗談じゃないわよ!」
 わたしは全力で抗議する。その、自分の目の前に空中浮遊してる、その端正きわまりないお人形ビジュアルのシーマに向かって。
「じゃ、食事とか、トイレとかって、どうすればいいのよ! それに、ダイブカフェの利用時間や料金だってあるし――」
「えっと。そうですね―― でも、じっさい、」
 シーマが言いにくそうに、視線を下に下げた。それからまた、顔を上げた。何か少し申し訳なさそうに、ぱっちりした青の瞳でこっちを見つめる。
「でも。食事やトイレは、特には問題にならないかと思います」
「問題にならない?」「えっと。それは、どういうこと、ですか…?」
「実際おふたりは、いま、空腹でしょうか? トイレに行きたいですか?」
「えっと。それは――」
 わたしは口ごもる。じっさいのところ、今のこの時点では、特に空腹感もない。喉のかわきもない。トイレも特には―― 行きたくない。
「ね? 大丈夫でしょう?」
「で、でも! それは今、たまたまそうなだけであって――」
「たぶん、そういう生理現象は、ここでは起らないと思いますよ。お二人が島にいる間には。」
「何よそれ? 意味がよくわからないけれど?」
「理由はたしか―― 何か特殊な時間の処理が、ここでは使われていると聞きました」
「時間処理??」
 ますます意味がわからない。この子はいったい、何を言っているの?

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