フォーの聖所

ikaru_sakae

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「ま、いろいろ話はあるとは思うけど。今はでも、移動だね。移動移動」
 ヤンカが無造作に両手で自分の髪をバサッと後ろに流した。髪についていた水滴が、小さなしぶきになって後ろに飛んだ。
「ラダー村、タイーデ村あたりからイソルダの浜にかけては戦闘がまだ続いている。私はこれからそっちにヘルプに行かなきゃならない」
 ヤンカが闇の向こうに、厳しく鋭い視線を飛ばした。
「さっき、遠目ですけど、ラダー村が燃えているのは僕のところからも見えましたよ」
 人形が、いっさいの音も重さも感じさせずにランカの肩の高さまで浮上し静止、ランカとならんで闇の向こうに視線を向けた。
「ねえシーマ君、」
「はい?」
「君は今から、この人たちを先導して、ウデの洞窟まで行きなさい」
「え。ウデの洞窟。」
 シーマと呼ばれた人形が、青い瞳をランカに向けた。
「あそこ、僕、好きじゃないんですよね。なんか、陰気くさくて。」
「バカね。洞窟なんだから、陰気なのは当たり前よ。でも今は非常時だから。今はここで君の好みを、細かくどうこう聞くときではない」
「あぁ。まあ、そうですね。すいませんでした」
「洞窟までの道中、安全は確保されている。そこにはもう、グマ兵はいない。ここに来るまでに、私がぜんぶやっつけたから」
「さすがですね、ヤンカさん」
「ん。でも、ここから下の海側、ラダー、タイーデからイソルデの浜―― さらにそこからシュメーネ川の河口にかけては、今は通行はムリよ。戦闘地域だからね。だからそこを避けて、ここの谷伝いに山側へ。ウデの洞窟経由でヒョルデ渓谷方面に移動を。できたらウトマまで戻りなさい。あそこは守りは固いから100%安全」
「了解しました」
「じゃ、あたしは行く。この二人を、ちゃんとそこまで案内してあげてね」
 ヤンカが、右手をのばして、手のひらで人形の背中の部分を二、三度軽く叩いた。 

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