フォーの聖所

ikaru_sakae

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「女め。島の人形どもの仲間、だな?」
 兵士のひとりが憎々しげに声を吐く。
 剣を失ったひとりはじりじり後ろに後退、それに代わって、グレートソードを縦にかまえた3人の重装兵が前面に立つ。アタマの上の半透明表示されてるレベル表示は、67、67、69―― 見た目は同じ黒鎧の重装兵だけど。いちばん右のやつが、どうやらいちばん強い――
「グマ皇帝エルミオ様の命により、この島のすべてを破壊する。一兵たりとも、住民ひとりたりとも見逃すなと。そのような命令を受けている」
 左側のそいつが、鎧の音をガチャガチャさせながら言った。
「女。特に貴様に恨みはないが―― エルミオ様の勅命である。悪くは思うな」
「貴様らはすべて―― ここで斬る」

 そう言って一歩、重い足音をたてて兵士たちが間合いをつめた。
 もうじっさい、かなり近い。いまこっちに踏み込んでくれば、剣撃を回避する余裕すらない。
「へえ? できそこないのNPCのくせに。いっちょまえのセリフを吐くのね」
 少女が鼻で笑った。チャイナテイストのドレスのすそが、ばたばた、夜風にひるがえる。ふたたび降り始めた小雨が、少女の金色髪に音もなくふりかかる。
「まあいいわ。まとめて相手してやる。さっさとかかってきなさい」
 少女が前方にのばした、革製のバトル・ガントレットをはめた左腕を前後に小さく揺り動かす。相手を挑発している―― のだろう。じっさい彼女の凛々しい口元は、今もかすかに笑ったままだ。
「こざかしい女め!」「やれッ!」
 声がとび、重い足音が鳴り、巨大な剣が風音をたてる。
 わたしが身構えたその瞬間。
 視覚がなんだか、おかしくなった。
 赤とゴールドと、黒と、何かの火花と、破壊された断片と――
 視界に入るモーションとオブジェクトがあまりにも多すぎて、きちんと像をむすんでいない。何かの残像、そのあとまた乱れた何かの残像。
 そして音が――
 金属が砕ける音。うめく声。倒れる音。誰かの激しい息遣い。
 激しい音と不鮮明なモーションのカオスが吹き荒れる。
 わたしはそこで何が起こっているかを、五感で捉えることさえできない。
 ただ、立ちつくしていた。

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