フォーの聖所

ikaru_sakae

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 走る。走る。走る。
 闇の中を。夜の浜を。岩の上。浪打ちぎわ。
 波音と、波のしぶきと、うしろから石を踏む四つの重い足音、
 そしてわたしの息遣い、リリアの激しい息遣い。
 ブンッ! と風をきって剣撃が飛ぶ。その風圧を、首のうしろに感じた。ヒットはしなかった。ヒットはしなかった。けど――
 この追われる恐怖感は本物だ。
 これはゲーム。これはゲーム。
 何度も自分に言い聞かせても――
 そこにせまりくる、闇の向こうの重い足音はあまりにリアル。
 足を止めることも、ふりかえることさえもできない。
 走る。走る。とにかく足を前へ。
 わたしの足がいくつもの岩を踏み、暗い砂を踏み、
 夜の茂みの底を駆け、林の中を、かけてゆく。
 リリアが少し、遅れている。
 やばいよリリア。スピードあげなさい!
 と、叫びたいけど、声にならない。
 わたしの口から出てきたのは、声にもならない、手負いの獣のような息の音だけだ。
 やばい。心臓、もう、破れるレベルで、バクバク鳴ってる。ただの、ゲーム、なのに―― なんだこの、恐怖感。なによこれ。なによこれ!
 
 視界が急に、ふさがれた。
 体全体にまんべんなく軽い衝撃があり、
 わたしの動きが、強制的にそこで静止。
「そんな―― 通行不可、オブジェクト??」
 岩山、とか。そういうやつだ。
 ジャンプや歩行では、突破は不可能、というやつ。
 やばい。左も―― そこも、黒々した岩の壁だ。
 じゃ、右は―― 視線を振ると、その視線が敵をとらえた。四体。近い。闇の向こうで、その黒々したいかつい鎧のシェイプと、赤い光を放つ合計8つの殺気立つ目。ガチャガチャいう鎧の音が、もう、すぐそこまで接近――
「アリーさん! もうこれ、やばい―――」
「リリア! 逃げて! 右!」
「ムリ、です!」
「ああもう、やばいやばいやばい――」 

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