フォーの聖所

ikaru_sakae

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 人形の一体が、刃の端をよけそこなう。瞬時に羽根をもがれたように黒い地面に落ちる。
 そこに鋭く突き刺さる、追撃の刃――

 ゴッ!

 炎が飛んだ。ファイアーボール。
 火炎魔法の初歩の初歩だ。
 炎は兵士の腕部分にヒット。
 重歩兵のHPバーが、目で確認するのもむずかしいレベルでわずかに右にシフト。ダメージとも言えない極小のダメージ。
 でも、それでも。グレートソードが狙いをはずした。
 ギンッ! という固い金属音。
 刃が地面の石を叩く。間一髪で、その人形はソードの直撃をまぬがれる。ひらりと地面の上でステップし、その人形が、ふたたび空中に浮上した。

「えっと、アリーさん??」
 リリアが驚愕の叫びをかすかにあげてこっちを見た。
 そうだ。
 いまファイアーボールを撃ったのは、わたし。
 撃ってしまった。ほぼ無意識に。
 ついつい、撃ってしまった。
 兵士のひとりをターゲットして――
 こちらから。
 攻撃を。仕掛けて、しまった、のだ――
 レベル違いの、LV67の屈強な敵キャラに――

 黒いヘルムの下、ギラリと燃え立つ兵士の二つの目が、
 いま、わたしを捉えた。
 そいつがわたしをターゲットした。
 ほかの三人の兵士らも、戦闘姿勢を一瞬静止。
 それからゆっくりとこちらを振り向いて――
 いまいっせいに。
 ターゲット、した。
 わたしとリリアを――
 そこにいる新たな敵キャラとして。
 そいつらが今、こちらを明らかに認識した。
 四人のゴツい兵士たちがいっせいに、
 こちらに向かって、グレートソードを手に手に振り上げ――
 おおおおおおッ! という大迫力の怒声をあげて、こちらに殺到――

「やばいやばい!」
「? アリーさん??」
「ちょっと! 何やってるのよ!」
 わたしは瞬時に茂みから飛び出して、もう全力で走りながら、動きの鈍いリリアに声を飛ばした。足はいっさい止めないで。
「え、何って、えっと――」
「逃げるわよ! ぜったい、一撃でも喰らったらアウト、なんだから!」
「え、ちょ、ちょっと待って、アリーさん!!」

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