フォーの聖所

ikaru_sakae

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「見ろ。あそこ。海上に火が、いくつも見えるだろう?」
 男が指さした海上。島にかなり寄った暗い海の上に、揺れる炎が、横一列になっている。その炎の列は揺らめきながら、少しずつ、島にむかって接近しているようだ。
「あの火。おそらく揚陸艇だ。ひとつの船に、二十人、三十人の兵を満載してる」
「ええ?? 何それ? どういうこと?」
「あっちの大きな明かり、どうやらあれは本船だな。あのサイズ。おそらくイリアス級の戦艦だろう。バカでかいやつめ。同じクラスの船が、あっちにも二隻いる。ったく。やばいところだったな。念には念を入れてこっちの明かりをすべて消して潜航してきたが、その用心は、まったくもってムダじゃなかったってわけだ。あんなバケモノ戦艦と正面からぶつかったら、こっちには勝ち目はない」
「ねえ、ちょっと。いったいどういう状況よ、これは??」
 わたしは入れ墨の入った男の肩を、ムリヤリに両手で揺さぶった。
「おい。気やすく触るな」 
「ちょっと。説明しなさいよ!」 
「だから。見ての通りだ。やつら、戦争をおっぱじめやがったんだ」
「戦争??」 
「ああ。どうやら相当な人数を上陸させてる。上陸戦の目的が何だかは知らんが―― やつら相当、本気だってことはわかる。これから島を制圧する、って感じか。ったく。ダメだダメだ。引き返すぞ。これ以上進むのはムリだ」
「え! ちょっと! ここまで来てそれはないでしょ!」
  
「全速旋回! 180ターンだ。すぐにこの海域から離脱する!」

 そいつが声を張り上げると、似たような黒いバンダナだかターバンだかを頭に巻いたマッチョな水夫たちが次々と甲板に飛び出してきて、マストの下で何かぐいぐいとロープの操作を始めた。黒の三角帆が、次々と角度を変える。たちまち船は大きく旋回をはじめた。
「待ってください!」
 リリアが、いきなり声を張った。
「ここで戻るわけにはいきません!」
「くどいな、嬢ちゃん。海況不良の場合は引き返すと。最初の契約で言ったろう?」
「ですが――」
「ですが、も何もない。まさに海況不良だ。これより悪い海況はない。引き返す。当然の判断だ」
「で、でも、せっかく今、島が見えたのに――」

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