フォーの聖所

ikaru_sakae

page24

「どうだろう」
 わたしはその場で腕を組む。思考しながら、自分の三歩くらい前の甲板をながめる。でもそこには特に、答えは書いていなかった。
「でも、なんか、無視できないだけの、何かはあった。なんだかほんとに、ほんものっぽかった。そのメッセージ。書き方、というか。そこにある空気、みたいなのが。姉貴がいかにも書きそうな。えっと、うまく説明はできないけど――」
「わたしも同じ、でした」
「同じ?」
「ええ。その、空気感、ですか? 確証はないけれど、でも―― あれはたしかに、弟が書いたメッセージじゃないかって。少なくとも、無視することはできない。確かめてみなくては、って。その島に行って。そこで実際、確かめてみないと」
「…だね。その部分の認識は、じゃあ、二人とも同じってわけだ」
 わたしは前方の床部分をターゲットしてゆっくりと歩行し、リリアの隣に立つ。船首に二人、肩をならべて、前方の深い霧の海に視線を固定する。
「なんかあれね。これはわたしの勘、みたいなものだけど――」
「はい?」
「なんかぜったい、その島には―― 何か普通じゃないものが、きっと、ぜったい、あると思う。それが何かは、行ってみないとわからないけれど――」
 わたしのその言葉は、たぶん、隣に立ってるアーチャーの娘に言ったのではなく、たぶん、わたし自身の心の向けて。ひとりで、自分に、言ったのだと思う。
「そうですね。わたしもそう、思います。きっとそこで、何かが――」
 その先の言葉を、リリアは飲み込んだ。
 二人は無言で、前方に広がる霧の海をただ見つめた。
 バーチャルな夜霧だとはわかっていたけど―― 
 この霧の先には、何か、バーチャルやリアルを超えた、大事な何かが隠されている。そんな予感、あるいは胸騒ぎみたいなものが。そのときわたしにあったのは確かだ。そしてその予感は、まるごと当たっていたのだと。後になってわたしは、嫌というほど知ることになる。

########################### 
 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品