フォーの聖所

ikaru_sakae

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「じゃ、あれか。オチとしては、弟さん、実際もうリアルでは死んじゃってて、ほんとはメールとか、できないはずなのに。とか。そういう話?」
 わたしは軽~く言ってみた。まあ、言ってる中身はけっこう重い気もするけど。
「…えっと。なぜ、それを?」
 リリアが驚いて目を見開いてこっちを見た。そこには純粋な驚愕、サプライズがある。
「なぜって、そりゃ、わたしもだから。わたしの場合は姉貴、だね。お姉ちゃん。半年前に死んだのに、なぜか、メッセージ来た。島で待ってる。会いに来て。だってさ」
「……そうだったの、ですか」
 沈痛な表情で、リリアが自分の足元を見た。
「わたしの場合は、その―― 三ヶ月前、ですね。弟が、もう、いなくなってしまったのは」
「なに? じゃ、やっぱりそっちも、自殺?」
「え、いえ、そこは――」
「あ、えっと。自殺じゃなかった?」
「えっと。その――」リリアはひたすらに、その、そこには今存在しない架空の髪留めを、左手で、何度も、触るしぐさを見せて――
「事故、ですね。あるいは事件――」
「ほう。じゃ、交通事故とか?」
 直球で、すかさずきいてしまうわたし。よくまわりから、「おまえ空気読めなさすぎだろう」って言われたりもするけど、たぶんきっと、こういうところなんだろうなぁ。 
「あの、三か月前に、タマサキの駅前で起きた事件、覚えてらっしゃいますか?」
「タマサキ? 事件? っていうと、ああ、あれか」
 タマサキのキーワードでピンときた。
 無差別殺傷。通り魔。多数の小学生が、犠牲に――
「あの、ごめん。ついうっかり、無神経にきいちゃって。それはたしかに、ん、キツい、事件、だったよね。そっかそっか。弟さん、それで、か。」
「はい。でも、事実ですから。特に、隠すような何かでも、ありませんし」
 少女はこっちを向いて、ちらっと、弱弱しい感じで微笑した。
 それから何を思ったのかはわからないけど、しずかに船首の方に移動して、船の先端に立って、前方の何かを見る姿勢をとった。わたしはそのあとは追わずに、ただ、その子の後ろ姿を見ていた。その、不釣り合いなくらい長いシルバーのロングボウを背中に背負った、リリアの小柄な立ち姿。海風が、彼女のシルバーグレイの髪を大きく横方向になびかせている。そのまま2分ほどが経過。あれ。やっぱあれか。空気読まなさすぎて、あれは触れてはダメなトピックだったのかな―― と、不安がこみあげてきた頃。
「ねえ、あれって、本当に本人からだと思いますか?」
 その可憐なるアーチャー少女―― リリアが、船首からこっちを振りかえって言った。

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