フォーの聖所

ikaru_sakae

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 周囲の視界はひたすらに霧。波を切って進むざぶざぶという波音が通底音としてそこにある。船の揺れは、それほどでもない。どこかのテーマパークのアトラクションの方が、よほどリアルな波揺れを再現しているような気もするけど。まあでも下手に船酔いとかも嫌だから、この程度のチープな揺れにとどめてくれてるのはかえって助かる。船の効果のBGMが、なんだかホラーな暗い音楽だったから、わたしは音をOFF設定に。あとは、ちゃぷちゃぷ、ざばざばっていう波音だけが、この夜の海で聞える唯一の音だ。
「ねえ、なんであなたは、メ・リフェ島に渡ろうってなったの?」
 単調すぎる音と視界に退屈してきたわたしは、そばにいるその女の子に、適当に声をかけた。名前はたしか―― 彼女のアタマの少し上のステータスバーを再確認。えっと――
「えっと、あなた名前の呼び方は、『リリア』で良かったんだっけ?」
「はい。それで問題ありません。リリア・ナーグ。ナーグは、名字のつもりで登録したので。『リリア』で呼んでもらって結構ですよ」
 リリアがこっちをふりむき、金色の瞳をわずかに細めて、ニコ、と気品あふれる感じで微笑んだ。むむ、これはゲームで、もちろんすべてはゲームビジュアルなのだけど―― なんだかすべての言動や仕草が、彼女の育ちの良さを表現している。まあじっさい、この子すっごいお金持ちのお嬢さん―― みたいな話だし。
「島には―― その――」
 船の正面、霧に包まれた夜の海のどこかに視点を定めて、その子が少し、言いよどんだ。左手で、頭の上の髪留めに手をやる動作をした、けど、実際そこには髪留めはない。きっとリアルだと、ふだんそこには何かつけているのだろう。
「弟に。ええ、会いに行きます。面会、と、言えばいいのでしょうか」
「ふうん。弟さん。何、そこで会おうって、なにか二人で約束したわけ?」
「ええ。約束、と、言ってもいいと思います。正確にはメッセージ、ですね。弟から、メッセージメールが、おととい、わたしに届きました」
「なるほど。」
 なんだかピンときた。話の先が、ちょっぴり見えてきた。

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