フォーの聖所

ikaru_sakae

page18

「それは、その―― なにか、特別な、レア・アイテム、というのでしたか。その、どこの大陸のどの街にも転移が可能だという、『エニグマ・クリスタル』というものを、やはりネット上のマーケットで――」
「って、めちゃめちゃレアじゃん、それ! このゲームのコアなプレイヤーでも、なかなか持ってるヒトいないっていう噂よ。わたしもぶっちゃけそれ買いたかったけど、オークションの最低相場が十二万とかで、あまりにもバカらしくて手が出なかったよ。それをあっさり買ってるとか――」
「えっと。あれはそんなに、その、高いもの、だったのですか?」
「ったく。呆れたお嬢様ね、あなた。まあでも、おかげでこっちは、お金、たてかえてもらえたわけですが――」
 最後はちょっと、敬語になってしまった。すごい。この子。なんだか知らないけど、本気のお金持ちっぽい。お嬢さまとかって、ほんとリアルに、いるものんなんだなぁ。
「あの、アレムさん?」
 その子が、わずかに首を右にかたむけてこっちにたずねた。そういう仕草も、なにか、さっきまでよりさらに、気品があって美しく見えちゃうのは、たぶんいま、リアルなお金の話をしちゃった後だから、だろう。なんだか自分が、ろくでもない使用人の娘、みたいな気持ちになってきている、自分がいる。
「えっと、そこはいちおう、アリームって、発音のつもりで登録したんだけどね、まあでも、呼びにくければ、アレムでも別にいいよ。あと、アリーとかでも。まあ、呼びやすければ、なんでも。」
 なんだか今になって、ちょっぴり凝った発音を想定してアルファベットのキャラ名を自己満足で登録しちゃったことが恥ずかしくなった。明らかに失敗した、これ。もっと単純なストレートなカタカナの名前にしとけばよかったよ、とか。今さらながら後悔。
「えっと、では、ひとまずアリーさん、と。呼ばせて頂きます。あの、アリーさん、」
「何?」
「たしか、先ほどの話では、ゲーム内時間で明日の二時、ということでしたが――」
「ああ、そうね。リアル時間だと、あと一時間と40分とか、それくらいの話よね、たぶん。ね、それまでどうする? どこか近くで、モンスター狩りでもやって時間つぶす? っていっても、あなたあれか。レベル3だと、このへんで戦闘やると一発で死んじゃうか。わたしの方もたいがいなレベルだし―― とはいえ、あまりほかに、ここで時間つぶせる何かも思いつかないなぁ」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品