フォーの聖所

ikaru_sakae

page15

「ん。すごいな。確かに―― ああ。8000。いま受け取った。文句なしのゴールド。ったく、まいるな。近頃の若手のアーチャー連中は、なんだ、王宮貴族とお友達、とかなのか? まったく。ありえねーな」
 自分で値段をふっかけておいて、しっかり受け取っておきながら、男はその金額にしばらく唖然としている。まあでも、じっさいこの男も、本気で支払えるとは思わずに、仕事を断りたいのが90%で、高額ふっかけたわけだろう。それを実際その子があっさり支払ったので、男としてもとまどいを隠せない。

「それで、船は、いつ出るのでしょうか?」
 金の瞳のアーチャー少女が、なにか切実な感じで男のそばにつめよった。
 ちょっと待ってろ、と男は言って、いちど事務所の奥に引っ込んだ。そのままトンズラするんじゃないかと、ふと不安になった頃、またこちらに戻って来た。なにか奥で、上司か誰かと打ち合わせをしていたっぽい。
「明日未明。夜中の2時に、北の埠頭に来い」
 男が、わたしとアーチャー少女に顔を近づけて、なにか密談っぽく声をひそめて言った。
「いいか、間違えるな。北埠頭、2時。そこに黒の帆を上げた小型のスクーナーが待っている。ああ、念のため言っとくと、スクーナーってのは4つの三角帆をつけた快速船だ。ほかの大型帆船の影になって見えにくい位置だが、決して間違えるな。そして時間には遅れるな。一分でも遅ければ、もうこの話はなし。時間厳守だ。いいか?」
「はい」「2時ね。ん。覚えた」
「あと、あらかじめ言っとくが、島への渡航には、少しばかり条件がある」
「条件?」
「ああ。途中の海上で、やばい事態になってそれ以上の進行がムリな場合には―― そのときは、船は島まで行かずに引き返す」
「え」「ちょっと。話が違うじゃない!」
「バカ。こっちも命かかってるんだ。相手がグマの軍船じゃ、慎重にならざるを得ない。まあ、そのかわりと言っちゃなんだが、もし島に着けなかった場合には、こっちの港に戻った時点で3500を返金する」
「なによ。そこは全額返しなさいよ」
「うるせーよ。おれはこっちのお嬢さんに話してる。おまえは1ゴールドすら出してねえだろ。文句言える立場か」

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