フォーの聖所

ikaru_sakae

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「そして今は、非常事態だ。この街の港は完全に封鎖されている。沖にはグマ帝国の正規軍の軍船が封鎖線を張って目を光らせてる。そういう最低の状況の中、こっちは夜、闇にまぎれて隠密に渡航することになるわけだぞ。生半可なリスクではない」
 壁の一点を睨んだまま、男が言った。いかにも海賊っぽい危険なビジュアルなのに、意外に律儀に説明してくれるあたりが、やはりゲームのNPCだ。
「したがって、そこの部分の臨時特別料金も加算――」
 男が手元の、レトロで風変りな計算機を指ではじく。
「ゴールドで4200。それが最低料金だな」
「ななッ! って、ちょっと! そ、そんなお金あったら、まるごと船が一艘買えちゃうじゃない!」
「なら、買ってその船でひとりで渡れ」
 冷たい声で男が言った。わたしは答えにつまる。
「もしできるなら、な。ったく。これだから素人さんは」いまいましそうに、男がチッと舌を鳴らす。「こっちとしては、今言った金額が最低条件。ま、あんたの財布じゃ、とても無理だろう。さ、わかったら帰れ」
「ぶ、分割払いは?? たとえば二年で二十四回払いとか――」
「うちは一括現金主義だ。おい嬢ちゃん、もう時間も遅い。さっさと家に帰った方がいい――」

「払います。4200」

 いきなり声がした。
 ふりかえると、店の入り口に女の子が立っている。
 服装と装備品からして、彼女のジョブは「アーチャー」だろうと見当をつけた。まあ、およそリアルの戦場では無謀すぎるであろう、ホワイトの薄手のチュニックみたいな軽装に、背中にかけた背丈よりも長いシルバーのロングボウを見ればそれは簡単に誰でもわかる。
 ピンと立った尖り耳、グレーとホワイトの中間色の、ドライでパサついた質感のボリュームある髪を、そのまま無造作に斜め後ろに流している。これもまたリアルには不可能なヘアスタイルだ(リアルだと、重力で垂直に落ちてくる)。

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