フォーの聖所

ikaru_sakae

page10

「ムリだなぁ」「今は時期が悪ぃよ」「ムリですね~」「あきらめた方がいいよ」「うちも無理だ」「どこも今は受け負わねぇよ」「……」「……」

 そのあと港の近くの路地をかけずりまわって、全部で十二社まわった。でもどこも答えは同じ。海況不良。時期が悪い。無理、無理、無理。
 太陽はすっかり海の向こうに傾いて、もう完全に心が折れそうになった頃、もうダメもとであと一社だけ。と思って飛びこんだ、港の隅のうらぶれた海事会社。表の看板は長年の雨風で塗装がはげて文字すら読みづらい。「イディハト商船」と。たぶん、書いてあるのだと思うのだけど。暗い店内には、ぽつんと隅に簡易なデスクと折りたたみ式のチェアがあるだけ。そこにひとりの男が座って居眠りをしていた。わたしが声をかけると、いかにもメンドクサそうに腕をのばしてあくびをし、行先は? ときいてきた。メ・リフェ島。わたしはまったく期待ゼロで島の名前を口にする。

「いくら出すんだ、あんた?」

 目つきのやたら鋭い、痩せた長身の男がこっちに声を投げた。それは予想もしてなかった言葉だったので、一瞬、答えにつまる。
「えっと。つ、つまり、船、出してくれるの?」
 おもわず声が、ちょっぴり裏返ってしまった。
「先に質問に答えろ。いくら出す?」
 なんとなく殺気のこもった声。じろり、と男がこちらをにらみつける。アタマには黒いバンダナみたいなものを巻いて、肩のところに不思議な模様の入れ墨がある。商船会社の社員というよりは、むしろ海賊の組員の方が近い感じがする。
「え、えっと。いま、所持金的には、ゴールドが117とシルバーが322、ですね」
 なんだか気おされて、急に敬語になってしまった。ゲームだけど、相手はNPCだけど。なにげに迫力ある「その筋」っぽい男に至近距離から睨まれると、さすがにわたしも、ちょっぴりビビっちゃうところはある。
「話にならん。それっぽっちでメ・リフェ島まで渡れると本気で思ってるのか? 帰れ帰れ。あんた、来る場所を間違えたな」
 男が何か、野良犬を追い払うみたいにシッシッと右手を振った。
「な、なによ。じゃ、いくらなら請け負ってくれるのよ?」
「ふだんの相場は、ゴールドでひとり1600」
「高ッ!」
「これでも安く設定してる方だぞ?」
「どこがよ! むちゃくちゃ高いじゃない!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品