アッフルガルド

ikaru_sakae

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「――神を冒涜するな、愚かな人間、」
 ヘスキアが言った。言葉は怒りに燃えている。
「当然そのような言葉は知っている。では逆におまえに問いましょう。この世界のどこに義の人が? 罪人でないと言える正しいニンゲンが、いったいどこにひとりでもいるの?」
「たとえば、そうですね、そこにいる女の子――」
 ルルコルルが指さす。いきなりこっちを指さした。
 え? なに? それってあたしのこと言ってるの??
 なんでいきなりあたしの話??
「たいへん申し訳ないんですが―― 僕にはどうも、いまそこにいるカナナさんのどこにも、罪とかそういうものを、見ることはできないんですね。むしろ良い子だと思いましたが。十分に救われる資質がある。仲間を思い、肉親を愛し、仲間の死を見て涙する。非常に心の正しい、普通の女の子ではないでしょうか。この方を罰する、どのような罪状をあなたは用意したのです?」

「黙れ! ニンゲンごときが!」

 ズタボロに傷ついたヘスキアの体が、それでも機敏にいきなり動いた。
 長く鋭い爪が、ルルコルルの胸を思いきり――

 いや、

 折れたのは、爪のほうだ。
 ビイインンッツ……  
 まっすぐ折れて、先の方から砕た爪は、
 サウンドとともに粉々に散り消える。

「な?? おまえはいったい、何、」
「やれやれ、短気はいけませんね、ヘスキアさん。僕らはいま話し合いをしているのですよ?」
 ルルコルルがふう、とひとつ息を吐く。
「でもまあいいです。ではひとつ、あなたのおっしゃる神を代弁して、僕のほうからささやかな意見を言いましょう」
 ルルコルルが微笑した。とても人なつっこい、イノセントな顔で。

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