アッフルガルド

ikaru_sakae

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「あなたたしか、お名前はヘスキアさん―― でしたっけ?」
「く、名前など―― この体など、所詮はかりそめの道具――」
「まあ、でも、とりあえずわかりやすいようにヘスキアさんと呼ばせて頂きますね」
 ルルコルルが、いつものさわやか丁寧口調で話しかけた。
「でもねヘスキアさん、僕は正直、さっきのあなたの姿勢にはあまり感心しませんでした。誇りある立派な天使として、あの姿勢は果たしていかがなものでしょう?」
「…姿勢?」
「ほら、さきほどそこの悪魔さんが、あなたに何か言おうとしていたでしょう。何か、考え方が違うとか―― どうしてあのとき意見を聞いてあげなかったのです? 悪魔は悪魔なりに、なにか実直で前向きな提言なども用意していたのかもしれませんよ?」
「…バカな。おまえ、本気でバカなの?」
 ルルコルルの腕に吊るされたまま、ヘスキアが小さく不敵に笑った。
「まったく笑わせる。悪魔の意見を聞くなどと――」
「ではもうひとつ、僕からヘスキアさんに質問したいのですが、」
 あくまで穏やかにルルコルルが続ける。
「あなた方サクルタスは、いかなる価値基準に基づいていまここの世界を壊そうとしているんでしょう? あるいはいかなる権限で?」
「ふ、無意味な質問だ。権限? そんなものは神から出ているに決っている」
「ほう。神から――」
「そう。これは神が下された決定。この世界は堕落している。罪人ばかりがはびこる。救いがたい。許しがたい。よって神は審判を下されたのよ。この世界は裁かれる。今が裁きのとき。われらサクルタスは、その大いなる神の使命を帯びてはるばるこの辺境時空まで――」
「神。いまたしかにあなた、神とおっしゃいましたね?」
 ルルコルルが笑った。少しどこか、楽しむように。
「ふむ―― ではまたひとつ伺いますが、あなたはご存じないのですか? 神がかつてこの世界をつくったとき、このような言葉を残したのを。『そこにひとりでも義の人を認めたならば、わたしはその町を滅ぼさない』」

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