アッフルガルド

ikaru_sakae

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 そいつがそこに立っていた。
 ズタズタに破れた絹のドレス、あらわになったお腹と太もも――
 あちこち焦げてもつれた長髪、血にまみれた手脚。
 だけど目だけが――
 青白く発光する二つの瞳、
 そこにはありあまる殺意が今もまだグツグツと煮えたぎり、

「サクルタス?!」「まだ死んでなかったの??」

 カトルレナとあたしが同時に叫んだ。
 最初に動いたのはカトルレナ。
 細身のレイピアをひきぬいて、素早い動きでそいつめがけて――

 え? 嘘??

 折れたッ!!
 いっぱつで折れた!! カトルレナのレイピア――

 バケモノの爪が払う。血が飛んだ。噴き出す大量の鮮血。
 崩れた。倒れた。カトルレナ――
 HP、グングン下降。危険水域の赤ゾーンを通りこし――

「うわあああ!! カトルレナァァァッッ!!」

 かけよる。かけよる。抱き起こす。血、すごい。とめどなく噴き出す血。カトルレナの顔、あたしの腕、その血が全部を濡らして――

ははっ。最後、ちょっとだけ油断したね」
 カトルレナが、さびしく笑ってささやいた。
「あとちょっと――だったのにね。だめだね、世界は護れなかった――」
「ダメだよ! カトルレナ! アイテム! 回復アイテム誰か!」
「――ムリだ… もう腕が動かない―― ごめんねカナナ、さいごはなんか、中途半端で」
「いいからアイテム! あきらめちゃダメ!」
「だけどなんだか、ちょっぴり疲れた。ごめんカナカナ。わたしはこれで、ひとあし先に――」
 ひとすじの涙が―― ツーッと頬をつたって流れた。その涙はほっぺたの上で血とまじり、ポタリと一滴、床にこぼれた。

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