アッフルガルド

ikaru_sakae

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 さいごに四人は、広くて明るい場所に出た。
 天井はずっとずっと上の方。四角く開いたいくつもの天窓から斜めに光が降りこんでる。
 そこは四角い地下の広間で、 
 奥の壁から際限なく水が湧き出し、四角い部屋の中央に四角いプールをつくっていた。天窓から降る光のひとすじが、ちらちら、ちらちら、水底の古いタイルの上でしずかに踊ってる。コポコポいう涼しげな水音。そこを流れる、おどろくほど透明な水。そしてなんだかおどろくほど―― それはとっても哀しい水だなと思った。哀しい水とか、自分でも言ってることよくわからない。けど、水にはたしかに、古い遠い故郷の陽だまりみたいな、うっすらした哀しみが―― ずっと静かに、とても静かに。

「あ、待ってカナカナ!」

 しゃがんで水面にさわろうとしたところを、カトルレナに止められた。
「気をつけた方がいい。まだステージが終わったわけじゃない」
 いつもの冷静なリーダーの口調でカトルレナが言った。
「攻略サイトによれば―― まだそんなものが、この壊れた世界の最果てで通用すればの話だけど―― ここには泉の精霊、ウンディーネ・レアルが棲んでるっていう設定になってる。それがいちおう、ここのステージのボス。けっこう強い上級モンスターのはずだ」

「でも今からここで、このメンバーでボス戦とか、ちょっと厳しすぎるね…」
 あたしはちょっぴり気が遠くなって、水際の石の上にへたりこむ。そこにしゃがんだまま、まあでも、最後のひとつの回復ポーションで申し訳程度にHPを上げた。マジックポーションでマナも最大値近くまで戻した。世界の最後のいちばん底でも、けなげにアイテムウィンドウは機能してる。ポーションもちゃんと効果を発揮した。誰がつくったゲームだか知らないけど―― でもこれ基礎設計、死ぬほどしっかりしてる。世界崩壊の瀬戸際ギリギリでも、こうして機能してるなんて。
「まあでも、やるしかないよね。泣いても笑ってもこれが最後だ」
そっちはそっちでひととおりの回復作業をすませたあと、ゆっくりカトルレナが立ちあがる。
「なんとかすっきり終わって、あっちに戻ってぐっすり寝たい。けっきょくあのあとまだトイレも行けてないし。いい加減お腹も痛くなってきた」
「あ、それあたしも。お腹も痛いし、寒いし。トイレしたい。なにげにお腹もすいてきた」
「ふふ。世界を護りにきた勇者様一行の最後の最後のコメントが、トイレ行きたい。とにかく寝たい、お腹へった、とかね」
 カトルレナが気弱に笑った。あたしもつられてちょっぴり笑う。ルルコルルはいつも通りわりと無表情だけど、たぶんそれでもちょっとだけ、唇の端っこでなんとなく笑ったっぽい。

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