アッフルガルド

ikaru_sakae

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「ひとつ訊いておきたいのですが、」
 ルルコルルが、しばらく待ってまた口をひらいた。
「なによ? 三つでも四つでもいいわよ?」
「いえ。ひとつで結構です」
 いつもの口調でそのヒトは言う。ぜんぜん特に、さっきのあたしの言葉には、何の影響も、何の感慨も何一つない。そういう感じ。ほとんど温度の感じられない、ひらべったい声で。
「つまりその、誰かにもう会えなくなるのは、悲しいことなのですか?」

「は?? なに言ってんの?? あたりまえじゃない!」

 あたしはマジメに腹が立った。あまりにも空気読まなさすぎるそのありえない質問に。
「ふむ、あたりまえ――」
「そうよ。悲しいわよ。悲しにきまってる! だって、もう二度と会えないのよ? どれだけどれだけ遠くに走っていっても。どれだけ遠くに探しに行っても。もうぜったい、どこでももうそのヒトと会えない。もうぜったい声を聴くこともできない。それが悲しくなくて、いったい何を悲しめばいいって言うわけ??」

 最後はなんか腹が立って腹が立ってやつあたりみたいに言った。
 ルルコルルは一瞬ちょっと困った表情になり、
 そのあとまたいつものちょっぴり微笑のデフォルトの顔に戻り、

――なるほど。そういうものなのですね。

 と、さいごにひとこと、ぽつりと言った。
 そのあとふたりは黙った。あたしもいいかげん怒り疲れて――
 それ以上はもう、何かを叫ぶ元気もなかった。

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