アッフルガルド

ikaru_sakae

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「いえ。冗談ではありません」
 変わらない速度で淡々と線路の枕木を踏みながらルルコルルが答える。
 枕木の下には、もうほんとに何もない。
 奈落。そのずっとずっと下で、名前も知らない星たちがたくさん白く輝いてる。
 ほんとにほんとにこのゲームは―― 世界はほんとに、どうなっちゃったんだろう。ここで一緒に遊んでいたはずの、何百何千というプレイヤーたちは―― みんなどこに行ったんだろう。
「カナカナさんが泣いているのは、さきほどアルウルさんがゲーム世界から消えてしまったから、ですよね?」
 かわらぬ真顔でルルコルルがきいた。
「そうよ! そうに決ってるじゃない!」あたしは泣きながら、怒りながら叫んだ。「あいつが、あのバカが。さいごのさいご、あんなマジメに、あんだけマジに戦って―― あんなに必死であたしを逃がして―― あとは、あと、あの、ダグっていう女の子。あの子もいなくなっちゃった―― 短いつきあいだったし、なんだか性格悪かったし、いっつも嫌味で冷たかったし、ほんとにはあの子のこと、あたし全然よく知らないけど、」
 声が震えた。鼻がつまって、なんだか上手く声にならない。
「でもさいご、すごく一杯血を吐いて、それでもまだ戦うのをやめなかった。あたしの世界のために、あのヒト、すごく戦って。さいごのさいごまで、一歩も退かなかった。命を張ってあたしら全部をまもってた。あれ見て悲しくならない方がおかしいよ!」
「ふむ、」
「あとあとそれと! トウキョウのこと―― あたしの街が、もう今はないこと。もう全部無くなってしまったこと! 一緒に住んでた姉貴が、たぶんもうそこにいないこと―― いなくなってしまったこと―― それの全部と、あともう、なんだかわかんないけど―― 世界がもう全部完全にムチャクチャになってどこがこれから誰がいったいどうなるのか、ぜんぜん何もよくわかんない―― そういうの全部ひっくるめて―― ひっくるめて――」
 なんだか悲しくてしょうがないのよ! そう言おうとしたのだけど―― 
 ゲホッ、ゲホッ。 
 最後は喉がつまってぜんぜん声にならなかった。

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