アッフルガルド
page100
「…悪魔、とおっしゃいましたか? では悪魔がいったい、ここで何を?」
「おそらく信じては頂けないでしょう。しかしあえて事実を申し上げますと―― ここを護るためです。あなたの時空を守護するため、わたくし含めた十二の悪魔が共同戦線を張り、」
悪魔を名のるその少女はそこで言葉を止め、そのあと苦しそうに顔をゆがめました。
「しかし、その多くはすでに敗れ去りました。防戦は失敗です。すでに十名が、天使との攻防の中で消え去りました。ここもまもなく終わります。ですので、わたくしはひとりでも多くの人名を救出すべく―― 残りのすべてのリソースを注いで、まだかろうじて残ったここでの救命のために――」
そこではじめて少女は―― 悪魔は―― 彼女をとりまく空間にひろく目を向けました。
少女の顔が、また一段と悲しみにゆがみました。
彼女は見たのです。
赤黒い血の海。むせかえるような死臭。
大聖堂に救いを求めて集まった人々は―― その数は数千。
わたくし以外の誰ひとりとして、救われなかったのです。
あの恐ろしい襲撃者が、ひと瞬きする間に、すべてを終わらせました。
すべてが死せる肉に変わりました。
神への救い、天使の救済を求め、ひたすらにひたむきに地に伏せ、祈りをささげた人々――
女もいました。男もいました。その多くは、まだ大人とも言えぬ若い者ばかり。
小さな子供もいました。赤子もいました。身ごもった若い母親も大勢いました。
しかし救いは、こなかったのです。
最後の最後の最後の最後の最後の最後――
いちばん最後のそのときまで――
わたしは神を見ませんでした。
彼はここには来ませんでした。
「生存者はあなたひとり―― ですか」
悪魔が、つらそうにうめきました。
「ごめんなさい。もう少し、はやくに来られるとよかったのですが」
「…あなたは、悪魔とおっしゃいましたね?」
わたしはようやく、声を出しました。
わたしの中の何かが、言葉をいま、欲していました。
だからわたくしは、あえて言葉を――
しぼりだすように、そこに言葉をつづけたのです。
「おそらく信じては頂けないでしょう。しかしあえて事実を申し上げますと―― ここを護るためです。あなたの時空を守護するため、わたくし含めた十二の悪魔が共同戦線を張り、」
悪魔を名のるその少女はそこで言葉を止め、そのあと苦しそうに顔をゆがめました。
「しかし、その多くはすでに敗れ去りました。防戦は失敗です。すでに十名が、天使との攻防の中で消え去りました。ここもまもなく終わります。ですので、わたくしはひとりでも多くの人名を救出すべく―― 残りのすべてのリソースを注いで、まだかろうじて残ったここでの救命のために――」
そこではじめて少女は―― 悪魔は―― 彼女をとりまく空間にひろく目を向けました。
少女の顔が、また一段と悲しみにゆがみました。
彼女は見たのです。
赤黒い血の海。むせかえるような死臭。
大聖堂に救いを求めて集まった人々は―― その数は数千。
わたくし以外の誰ひとりとして、救われなかったのです。
あの恐ろしい襲撃者が、ひと瞬きする間に、すべてを終わらせました。
すべてが死せる肉に変わりました。
神への救い、天使の救済を求め、ひたすらにひたむきに地に伏せ、祈りをささげた人々――
女もいました。男もいました。その多くは、まだ大人とも言えぬ若い者ばかり。
小さな子供もいました。赤子もいました。身ごもった若い母親も大勢いました。
しかし救いは、こなかったのです。
最後の最後の最後の最後の最後の最後――
いちばん最後のそのときまで――
わたしは神を見ませんでした。
彼はここには来ませんでした。
「生存者はあなたひとり―― ですか」
悪魔が、つらそうにうめきました。
「ごめんなさい。もう少し、はやくに来られるとよかったのですが」
「…あなたは、悪魔とおっしゃいましたね?」
わたしはようやく、声を出しました。
わたしの中の何かが、言葉をいま、欲していました。
だからわたくしは、あえて言葉を――
しぼりだすように、そこに言葉をつづけたのです。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
15254
-
-
2265
-
-
17
-
-
755
-
-
140
-
-
59
-
-
1359
-
-
3087
-
-
4112
コメント