アッフルガルド

ikaru_sakae

page49

「全部消えると、やっぱりまずいのかな?」
「まずいって?」
「まあそりゃ、その世界の消失ってのにまきこまれたら、リアルな体もなくなっちゃうから、その瞬間はちょっぴり怖かったり痛かったり苦しかったりするのかもしれない―― けど、それってたぶん、一瞬のことじゃない?」
「だから? 何が言いたいのカナカナーナは?」
「ん、なんだろう、」あたしはゆっくり言葉をえらんだ。「でもその、その大変な一瞬が過ぎちゃいさえすれば、それで全部終わるでしょう? だぶん誰もそのあとは困らない。誰も悲しまない。あとに残って誰かが大変な世界をどうにかしなきゃ、って話もまったくない――」
「じゃ、このまま何もしなければいいってこと?」
 カトルレナがわずかに顔を上げてこっちを見た。
「や、べつにそうしましょうって言ってるわけじゃなくてさ。なんだろう―― あたしにしてみれば、そんな死ぬほど今の世界が大好きってわけでもないし。どこもかしこも汚い街で、しょうもない大人がいばってて、暇つぶしのゲーム以外にやりたいことなんて特になくて。彼氏もいないし。好きなヒトって言ったら、せいぜいあたしの姉貴くらい。なのに――」
「なのに?」
「なのに、そういう適当なあたしが、この世界を護るとか、護り抜けるかとか? なんかおかしいよ。変だなと思って」
「ま、それは少し言えてるかも」
 ふたたび顔をテーブルに伏せて、カトルレナが答える。
「わたしも正直、もうこのままでもいいかも、って。ちょっぴり心のどこかで思ってる」
「カトルレナも?」
「うん。ほんとに正直言うとね。だって―― がんばってこのミッションをクリアして世界を護ったとしても。それで別に、死んだ夫が生き返るわけでもない。死んだ娘も戻ってこない。けっきょくまた、あの行き場のないリアルワールドで、またグダグダの引きこもり人生をダラダラ続けるだけでしょう。なんかそれ、よく考えるとやりきれないよね」
「――旦那さん、死んじゃったの?」
「ん。もうだいぶ前に、ね」
「――娘さんも?」
「うん。」
「なんで? って、聞いちゃってもいいのかな?」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品