アッフルガルド

ikaru_sakae

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「あの、ごめんねカトルレナ… なんかいきなり押しかけちゃって」
 毛布を鼻の上まで引き上げて、あたしはボソッとつぶやいた。
 しばらく返事はなかった。ぜんぜん声が届いてないのかな? と思ってもういっかい言おうとしたとき、むこうから声がかえってきた。ちょっぴり弱弱しい声で。
「…いい。なんだかほんとに非常事態なんだっていうことはわかった」
「ごめん。なんか、変なのにつきあわせちゃって。すごい迷惑かけちゃってる」
「…いい。だってあれは、カナナひとりがやったことじゃなく、みんなその場で一緒にやったことだから――」
 声はだいぶ、弱ってはいるけど―― でもそれはなんかいつもの、ゲームで話すときの彼女の声みたいに聞こえた。なんとなくあたしはちょっと安心した。
「今ここで何もせずにほっといたら、けっきょく世界はダメなんでしょ? だったら行くしかないよね。カナカナとわたしと―― あと、できたら、アルウルも一緒に」
「来るかな、あいつ? なんかひとりで逃げそうだけど?」
「ま、とにかく眠って、すべてはそのあとだね。わたしも眠い。まずは眠って―― 起きたら、ひとまず二人でダイブして――」
 しばらくして、すーすーいう寝息があっちから聞こえてきた。起こすのも悪いから、あたしもそのあとは何も言わなかった。
 すごくすごく疲れてたわりに意外になぜだか寝つけなかった。なにげにゴミの中にまじってるクリームシチューみたいな匂いが気になって―― けど―― そのうち意識がどこかに飛んで、あたしは深い眠りの中に知らずに入ってた。すごく苦しい長い夢をたくさん見た気がする。だけど記憶にぜんぜん残らなかった。とにかくたくさんの変てこな夢の中を、あたしは飛んで――

 いくつもの夢のさいごに、また、あの夢を見た。
 一か月か二か月に一回は必ず見る、あれ。
 もう見あきるくらい何度も見た、いつものあの夢。
 でもこれは、夢、なのかな?

 記憶。キオク。

 じっさいあったことと、なかったことが半分ずつ入り混じって、
 なんだかもう、それが夢だったのか、
 それとも全部が本当なのか。もう半分は、忘れてしまった。


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