アッフルガルド

ikaru_sakae

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 そこに立ってるダグっていう子は、なんだかとっても無表情。グネグネしたヘビのデザインの杖を左手に持って、なんだか壁紙でも眺めるみたいにこっちを見てる。
「なぜなら、あそこはもう安全ではありませんから」
 平板な声でダグが言う。売上伝票でも読み上げるみたいに。
「おそらくサクルタスは、カナナ様の住居の位置をすでに把握しています。その可能性は99.996%。今からそこに移動することは、わざわざ攻撃を受けに行くようなもの。賢明な行動とは思えません。もちろんわたくしも、もともとカナナ様ががそれほど賢明な方でないことはすでに理解していますが――」
「あ。またそれ、あたしをバカにして」
「ダグの言う通りですよカナナ」
 ヨルドがむこうから言った。そっちはダグよりほんのちょっとはフレンドリーな声で―― 屋上の端っこ、落ちるか落ちないかのギリギリの位置。まったく高さを気にしない様子でまっすぐそこに立ってる。夜明けの風がふわっと吹いて、まっくろ黒のコートの裾が揺れ、長い長いムラサキの髪も同時にぶわっと横に揺れた。
「いまそこに戻るのは危険です。賛成できません。眠るなら、どこか別の場所を選びましょう」
「選ぶ? 選ぶってどこを?」
「いくつか選択肢がありますが、」

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「え? え? え? う、う、う、うあああああああ!!!!!」

 いきなり誰かが叫んでる。完全パニックになって取り乱してる。 
 
 目を開けたらいきなり知らない場所だったからあたしもびっくりした。
 カップ麺の空。カップ麺の空。カップ麺の空。
 あとペットボトル。これも大量。あとは白のビニール袋。コンビニとかで普通にもらえるいちばんショボいやつ。あとほかにレトルトカレーのパック。そのほか白いトレーとか。あとほか大量の衣類。ティッシュの箱と多数のガラクタ。
「ちょっとあんた! 何なのよここ! 全然まちがった家じゃない!」
 あとから転移してきたダグの腕をひっつかんで、あたしは全力で怒鳴った。
「どっかのゴミ屋敷じゃないここ! 住人のヒト、すごく怖がってるし!」 

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