アッフルガルド

ikaru_sakae

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「ここ?」「ここだな」「うん。間違いない」
 あたしたちはいま、その扉の前で立ち止まる。

 左手で慎重に扉を押す。
 開いた。あっけないくらい簡単に。
 部屋の中はほのかに明るかった。 
 石造りの床に、異国模様のカーペット。
 部屋の左に大きな寝台。ふわふわシルクの天蓋がついた、すごく清楚で上品なやつ。
 でも今はそこには誰もねておらず、
 右奥の大きな窓の前に、たぶんそのベッドの持ち主――
 この部屋の主であるひとりの小柄な人影が。

「誰です?」

 声。
 よく通る女性の声だ。
 たぶんとても若い。
 あたしは一瞬たじろいだ。
 なにしろその声があまりにも、
 あまりにも、そう、その――
 綺麗だったから。

「あんたが、『緑の姫君』だよな?」
 アルウルが、横柄マイペースな質問を投げる。
 同時に、じわじわじわじわ、距離をつめていく。両手のダガーは臨戦態勢。
「その名で呼ぶ者もいます。でも、わたしには正式な名前というものがありません。皆が色々な名で呼びます。姫様、領主さま、緑の公女――」
 一歩も退かずにそう答えたその人物。見た感じ―― 
 そう、たぶん十三歳くらいの女の子だ。
 まっすぐな長い髪の色は白銀。だけどどういう光りの加減か、ときどきそれが緑に見えたり、でもまたもとの銀色に見え―― ひたいには、宝石をあしらったサークレットをつけてる。ゆったりまとった薄緑のドレス。その足はまったくの裸足。とても形のいい小さな二つの足が、直接石の床を踏んでる。その足のあまりも無垢な白さが、なんだか不思議に、あたしの心を強く打った。

 なんだろう、この感覚?

 すごく遠い深い夢の中で、もう二度とは会えない大好きな誰かを見るような―― ずっとずっとあこがれていた、いちばん大事で綺麗な何かに、今ここでほんとに出会ったみたいな?

「ま、えっと、なんだ―― あれだよ。おれら特にあんたに、恨みもないし悪意もないし、悪いなぁとは思うんだけど、」
 アルウルが急にとってつけたように、なんだかしらじらしい口調で不明瞭に言った。
「わりぃ。けど、恨みっこなしな。おれらも依頼うけて、軽~いアルバイトミッションとしてちょこっとやるだけ、だからな。だからあんまりこっちを恨んだりしないで――」
「ちょっとあんた。なにいきなり言い訳してんのよ?」
あたしはあきれてツッコんだ。
「何がアルバイトミッションよ? そんな単語はじめて聞いたわ。だいたいこれって胸張ってミッションとか言えるような何かじゃないでしょ? すごくあやしい裏のバイトじゃない?」
「うっせーな。いいんだよそんなのはどっちだって――」


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