アッフルガルド

ikaru_sakae

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 壁のむこうは、深い草におおわれた広い庭だ。草丈はあたしの首くらいまである。いちばんチビのアルウルは、完全に頭まで草にもぐった。
 草の海を左右に分けながら、ゆっくり着実に前進するカトルレナ。左手に持った長剣の切っ先が草の上に出て白くキラリと光ってる。あたしも続いて前進。右手に持った銀製のワンドをもう一回しっかりと握りなおす。あたしのうしろで、アルウルが二本のダガーを鞘から引き抜いた。
 やがて草の海は、館の本館の壁の手前で終わった。
 さっき通ってきた外壁と同じ材質の白い石壁。その壁に沿ってしばらく進むと、いちばん奥、ちょうど木立の暗がりになってる部分に、ひとつの扉があった。小さな古い木の扉。メインの扉というよりは、非常用の裏口とか、使用人が使う地味な通用口とか、何かそんな感じだ。
 
 ガッ! ガシッ!

 カトルレナが大胆に足で蹴った。
 三回蹴った時点で、意外にあっけなく扉はひらく。
 三人同時に踏みこんだ。
 そこは、ひらたく言えば台所。
 舘の厨房みたいな地味なスペースだ。
 舘の住人との遭遇戦も予想して、けっこうピリピリ身構えていたけど。
 でも、誰もそこにはいなかった。無人。
 暗い夜の厨房には大きな鍋や水瓶がいくつもならんでる。隅の方には古いでっかいカマドがあった。その横には調理用の薪が山と積み上げられ――
「さ、行こう。走るよ?」
 カトルレナの合図で、夜の調理場を一気に走り抜け、そこから続く長い廊下をひたすら走る。壁には何か所か灯がともり、廊下はうっすら明るい。しかしここにも家の者の気配はない。無人だ。ん、なんだろう。これはちょっと、さすがに護りが甘すぎないか? いいのか、こんな簡単で。 
「来たね。たぶんこの階段だ。」
 足を止めたカトルレナ。顔の前の空間に小さな地図を浮かべてチェックする。
「えっとたしか、三階の奥だったよな? こっからいちばん上の階?」
「いやいや、四階でしょ。それくらいちゃんと覚えてきて欲しいな」
「こまっかいなぁ。最上階ってのは正解だから問題ないだろ」
「いいからさっさと行くわよっ」あたしはアルウルの耳をひっぱった。「さっさと行って、さっさと終わらせよう」
 こんどはあたしが先頭にたった。
 一気に階段をかけのぼる。基本は石の階段だけど、中央のところに小奇麗な緑のカーペットが敷かれてる。おかげでぜんぜん足音がたたない。ほんのりやわらかな布の感触をブーツの下に踏んで。
 二階。
 三階。
 三階おどり場。
 そして四階。

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