Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第91話 帰り道

マネージャーへの直談判は成功し、楓の残り半年の学校生活を勝ち取った俺は新幹線で背もたれを最大限倒し、体の力全てが抜けていた。

「スライムみたいになってる」
「おー。もう気が抜けて元には戻れん」

帰りの新幹線で横の席には楓が座っている。
修学旅行の帰りのバスでも楓が隣に座ってて告白されたんだよな……。

「隣同士に座ってると修学旅行を思い出すね」
「お、おう。そうだな」
「告白の返事、ゆっくりで良いよ。まだ半年あるわけだし」
「……すまん」
「悩んでくれてるって事でしょ? でも逆に言えばあと半年しかないって事だからね」
「はい。承知しております」
「ふふっ。なんで敬語なの」

何気ない会話をしながら楓は隣でスナック菓子を頬張っている。
おいしーっと頬を押さえて口をもぐもぐさせている姿に気疲れしていた心は癒された。

「私が上京しなくて済んだのは本当に祐のおかげ。マネージャーさんに私が祐に告白した事を言い出した時は頭がおかしくなっちゃったのかなって思ったけどね」
「まあな。上手くいったからよかったけど、あれで失敗してたらただの頭おかしいやつだからな」
「本当にありがとう。なんかしてほしいこと無い? なんでもひとつ言うこと聞いてあげる」
「な、なんでも⁉︎」
「うん。なんでも」

そう言いながら俺の方に身を寄せてきた楓は俺を下から覗き込む。

なんでも、と言われると男なら誰しも一瞬、邪な考えが頭をよぎる。
だが俺は理性を働かせ、誠実なお願いを考え始めた。

楓が俺の言う事をなんでも聞いてくれる機会は今後1度もないだろう。
楓が上京してしまっては尚更、お願いを聞いてもらうどころかまともに会話さえ出来なくなる。

俺は考えに考えた末、一つのお願いを思いついた。

「お、何か思い付ついたかな?」
「ま、まあ思い付いたと言えば思い付いたんだけど……」
「なんでもって言ったでしょ? 恥ずかしがらずに言ってみなよ」
「いや、でもこれは……」
「もう、まどろっこしいなー」
「わ、わかった。言う、言うから」

自分でも俺が今から楓にするお願いが気持ち悪くて最低なのは分かってる。

だが、これは以前からの俺の夢のようなものだった。

「日菜の声で、おはよう祐くん。今日も1日ファイトだよ、って録音させてくれ」
「……」
「……」
「……ぷっ」
「ぷっ?」
「ははははははっ‼︎ なにそれ‼︎ そんな音声が欲しかったの?」
「わ、笑うなよ。日菜ファンなんだからしょうがないだろ」
「いやーもう祐が日菜ファンだっててっきり忘れてたよ」
「忘れるな。俺はいつまでも日菜ファンだ」

俺は楓に気持ち悪がられてはいないかと変なお願いをした事を後悔している。

楓が笑ってくれているのが唯一の救いだろうか。

「全然良いよ。普通はダメなんだけど、祐は特別だから」

新幹線の中で楓はスマホに最大限口を近づけて口を両手で囲い、音が漏れないようにして小さな声で録音してくれた。

「おはよ祐くん。今日も1日ファイトだよ‼︎ ……大好き」

日菜の声に耳を傾けていた俺は日菜が放った最後の最強のセリフにボディブローをくらった。

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