Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第50話 修学旅行の朝

修学旅行当日の朝、俺は慌ただしく準備をしていた。

妹のモカと一緒に。

「もうお兄ちゃん、なんで前日までに色々準備しとかないの! 散々言ったのに」
「いや、なんか今日の朝に準備しても間に合う気がして……」
「間に合う訳ないでしょ‼︎ ついにお兄ちゃんのことを想ってくれる女性が現れたかと思ったら……。そんな頼りないとこ見せてたら嫌われるよ」
「大丈夫、俺のことを好きな女の子が現れる訳がない」
「そんなネガティブなこと言わない‼︎ 私はお兄ちゃんの魅力をたくさん知ってるから。みんなまだお兄ちゃんの魅力に気付いてないだけ」
「そんな嬉しいこと言ってくれるのはモカだけだよ……」
「まあ妹に言われてもって感じだろうけどね」

俺が今朝まで準備をしなかったのには理由がある。

それは昨夜、祐奈とラインをしていた時のことだ。

修学旅行はバスで京都へと向かう。バスの中は班員同士で分かれて座るため、楠木、楓、風磨の3人の誰かが横の席になる。

俺は以前から、どうせ横に座るのは風磨だろうと席順のことを気に留めていなかった。

しかし、昨夜楠木からこんなラインが来た。

『明日から始まる修学旅行、楽しみですね』

まあこれはなんの変哲もない文章だ。

それに対して俺はこう返信する。

『俺はアニメの聖地巡礼することしか頭にないけどな』

俺の頭の中は聖地巡礼をすることで埋め尽くされていた。修学旅行で女の子と仲良くなろうとか、付き合おうとかそんな事は一切思っていない。

『明日の行きのバス、隣に座ってもいいですか?』

唐突に送られてきたラインに目を丸くする。このラインを見た時、本当に祐奈から送られてきたのかと目を疑った。

一瞬風磨から送られてきたラインだと勘違いしてしまった。
まあ風磨から隣に座ろうと言われたらそれはそれで気持ち悪いけど。

俺にとっては学校1の美少女がバスの中で隣の席に座るのは喜ばしいことだ。
それに現地に到着するまでの長い時間、ずっと隣に座っていられると想像すると頬が緩む。

『オッケー。バスの中でアニメ見たり出来るな』
『はい‼︎ Bluetooth繋いで曲も聞けます!』

そうだな。確かにBluetoothイヤホンで曲も聞ける。

でも祐奈さん。隣に座るなら別に有線のイヤホンでも良いんじゃないか?
Bluetoothで繋がるよりも、有線で同じイヤホンを片耳ずつシェアするってのが青春ってもんだろう。

でもそれを祐奈に伝えるのは野暮なことだ。俺たちが繋がったきっかけはBluetoothイヤホンなのだから。
Bluetoothイヤホンがなければ学校1の美少女と俺が繋がる事はなかった。

結論を言うと、俺はこのラインに興奮して夜も眠れなかった。

モカに再三準備しなよと釘を刺されてもそんな言葉は全く耳に入らなかった。

明日の朝でも良いだろうと楽観的に考えていた結果がこの様。
朝早くからモカに準備を手伝って貰っていると言う訳だ。

修学旅行、何事もなく乗り切れるといいが……。

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