Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第42話 勝負

祐奈は俺たちアニメオタクグループと時間を共にすることが多くなったが、今まで一緒にいた陽キャグループとも上手くやっているようだ。

祐奈だけでなく、俺や楓、風磨の3人もアニメの話で陽キャグループと盛り上がることがあった。

そんな何気ない幸せな日常を手に入れてからしばらくして、楓に急に呼び出されて俺はショッピングモールに来ている。

どうやら夏服を購入したいらしく、俺についてきてほしいとのこと。

今まで楓と遊んだ内容はアニメイロに行くとか、アニメの映画を観に行くとか、そんな用事だった。
今回もそんな内容で呼ばれるなら違和感はないのだが、ただ服を買うというだけで何故俺を誘ったのだろうか。

アニメオタクの俺はお世辞にもファッションセンスがあるとは言い難い。
とりあえず上下無地の服を着ておけば失敗はないという信念のもと地味な服装を貫いている。

そんな俺を今日の女房役として起用するなんて楓は一体何を考えているんだ?

携帯を弄り楓の到着を待つが、集合時間を5分過ぎても楓は集合場所に現れない。

声優の仕事も忙しいだろうし寝坊でもしたんだろうか。

気長に待とうと油断していると、後ろから何者かに手で目隠しをされた。

「だーれだ」
「いや、だーれだも何も待ち合わせしてるこの状況とその声で俺が分からない訳ないだろ」

そう言って楓の手を剥がし振り返る。

振り返り楓の顔を見た瞬間、息が止まりそうになる。

楓は毎日学校でよく見る地味な見た目ではなく、前髪を分け顔の出た日菜そのものだった。

「な、なんで日菜⁉︎」
「何慌ててるの。私服を買いに来てるのに楓のまま来るわけないでしょ。楓と日菜じゃ似合う服も違ってくるし」
「いや、そりゃそうだけど……。そんな姿でこんな人混みの中を歩いたらすぐにバレるんじゃないか?」
「それは大丈夫。これがあるから」

そう言って楓が胸ポケットから取り出したのは伊達メガネだ。

いや、そんな簡単な変装じゃ日菜ファンの人が見たらすぐにバレるだろ、と思いながらもその言葉を発するのは野暮だと思いやめた。

「それがあれば大丈夫か。じゃあ服見に行くか」

そう言ってショッピングをスタートしたが、楓が日菜の姿でずっと横にいるとどうにも落ち着かない。

いつもよりはっきりと濃いめに施されたメイクのせいで、今俺の隣にいる女の子が楓だとは全く想像できない。

楓は声優の日菜として活躍しているわけで演技のプロだ。

果たして楓は楓を演じているのか、日菜を演じているのかどちらなのだらうか。

そんな疑問を、日菜に直接聞いてみた。

「本物の楓はさ、楓なのか日菜なのかどっちなんだ?」
「祐はどっちの私が好き?」

そう聞かれて改めて楓と日菜に対する気持ちを考え直したが、俺は意外と楓のことも日菜のことも同じくらい好きなのかもしれないと思った。

好きのベクトルは違うけど。

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