Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第20話 記念日写真

ゆいにゃんのライブは終始大歓声に包まれていた。

カラフルな照明が縦横無尽に動き回るその光景は四季折々の花が集まる花畑のようだった。

俺と楠木は予習して来たコールを大声で叫び声はガラガラ。喉は痛むが本当に楽しい時間だった。

ライブ中の唯一の悩みはコールを叫ぶかゆいにゃんの姿を目に焼き付けるかどちらを選ぶべきかということくらいだ。

ライブが終わり会場内が照明の明かりに照らさせると横にいる楠木が汗だくになっているのが分かった。

会場内は空調が稼働していると思われるが、ゆいにゃんファンの熱気が充満し体感温度は35度を超える猛暑日並みの暑さだった。

俺たちは足早に会場を後にするファン達に取り残されるようにしばらく席の前で立ち尽くしていた。

「どうだった?初めての生ゆいにゃんは」
「やばいです……生はやばいです……」

楠木は途切れそうなか細い声で答えた。

生はやばいと言うなんとも生々しい言葉に意味は違えど若干の興奮を覚える。

ライブが終わった後の楠木は興奮しているというよりも、興奮を通り越して燃え尽きていた。

俺たちは冷めやらぬ興奮を抑え帰路に就いた。

帰りの電車の中では他の乗客に迷惑をかけないように小声でライブの感想を語り合った。

ゆいにゃんという名に相応しい子猫のような可愛らしい声に洗練されたダンス。

フリフリのレースを多くあしらった桃色の衣装はずっと見ていても飽きないだろうし、アンコールでゆいにゃんがライブTシャツを着て舞台に出て来たときはゆいにゃんと同じ服を来ていることで会場の一体感が増した。

楠木の影響でゆいにゃんのことを好きになってきていたが、今日でゆいにゃんの大ファンになった。

ゆいにゃんの魅力を伝えてくれた楠木に感謝だな。

自宅の最寄駅に到着して、楠木と最後に会話をする。

「今日はありがとうございました。人生初のゆいにゃんのライブに連れて行ってくれた渋谷くんはもう神みたいな存在です」
「神は大げさだよ。運良くチケットが当たっただけだしな。俺の方こそ礼を言わせてくれ。ゆいにゃんの事を好きになれたのは楠木のおかげだ。ありがとな」
「渋谷くんもゆいにゃんを好きになってくれたみたいで嬉しいです」
「きっと来週は楠木が日菜の事を好きになるよ」

じゃあな、と言って楠木と別れようとしたとき、楠木が俺を呼び止める。

「渋谷さん‼︎」
「ん? どうした?」
「ゆいにゃんのライブに初めて行った記念日って事で写真を撮りたいんですけど……」
「写真か。わかった」
「いいんですか⁉︎」
「そりゃ減るもんじゃないしな」

こっちに来てくださいと言われて楠木の横に並ぶ。身長差があるため2人がiPhoneのカメラに収まるように膝を曲げて高さを合わせる。

「ライブTシャツが写るように撮りますね‼︎ もうちょっとこっちに寄ってもらってもいいですか?」
「わ、わかった」

ライブで汗だくになった俺は汗の嫌な匂いが楠木にバレないか不安だった。

しかし、そんな不安を忘れてしまうほど良い匂いが楠木から香ってくる。

花の香りにつられて飛んでくる虫のように俺は楠木にこっそり近づいていた。

楠木もライブで滴る程に汗をかいていたはずなのになぜこれほど良い匂いがするのだろうか。

楠木の、はいチーズというかけ声でカメラのシャッターは切られた。

「お、おい、ちょっと待て。俺半目になってるじゃないか。恥ずかしい消してくれ」
「えーこれも記念じゃないですか。半目記念日」

なんだそれはと思わず笑みをこぼす。

その後でもう一枚、まともな写真を撮影して俺たちはお互い自宅へと帰っていった。

家に帰って寝る準備を終えると楠木から今日の2ショット写真と、ついでに半目の写真が送られてきた。

半目の写真はいらないとしても楠木と2ショット写真か。

俺はその後しばらく2ショット写真を見つめ、いつの間にか眠りについていた。



◆◆◆



月曜日、学校に登校し席に着く。今日は風磨と楓にゆいにゃんのライブのことを思い切り自慢してやろう。

「おはよ」
「楓か。おは」
「ゆいにゃんのライブはどうだった?」
「控えめにいって最高だった。日菜も好きだがゆいにゃんの事も好きになったよ」
「ふーん。それで、例の新しいオタク友達の子とは仲良くやってるの?」
「ああ楠木の事か。そりゃもう楽しくアニメの話をさせてもらってるよ」

俺がそう言うと、楓は驚いたような表情で言葉を発しなくなる。

急にどうした?

「……楠木?」

……あ、俺やらかしたな。

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