Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第16話 ライブ当日2

今日はファミレスで渋谷君と明日のライブについて作戦会議をしてから帰宅した。

明日は待ちに待ったゆいにゃんのライブの日。私は今日までの学校生活をゆいにゃんのライブを目標に頑張ってきた。

面倒くさい学校の授業も宿題も、嘘の自分を演じることも、ゆいにゃんのライブのことを考えれば乗り越えられた。

しかし、私はベットに寝転がりながら大変なことに気付いてしまった。

明日は渋谷君と二人でゆいにゃんのライブに行く。

そう。二人っきりで。

通学、下校の時にイヤホンを繋げている状況も、毎日のように二人でファミレスに行くという状況も冷静になって考えてみれば相思相愛のカップルの様だ。

私は陽キャという名の仮面をかぶったアニメオタク。オタクの私にはそれがカップルの様な行動であると気付くまでに時間が必要だった。
とはいえ、それに気付くのがゆいにゃんのライブ前日だなんて……。いくらなんでも遅すぎるしタイミングが悪い。

それに私、ゆいにゃんのライブのチケットを申し込んで欲しいと渋谷くんにお願いしたとき何て言った?

渋谷君は私と二人でライブに行くという状況がおかしいと判断して

「俺も行っていいのか?」

と聞いてくれてたのに、

「むしろ誰と行くんですか?」

って言った気がする……。

恥ずかしすぎる。アニメのことになるとつい夢中になってしまって周りが見えなくなるのが私の悪いところ。
中学校でもアニメオタクである事を理由に仲間外れにされ、いじめを受けることになってしまった。

昔は地味で暗い性格だったのでいじめの標的にされ易かったのかもしれない。

そんな自分を変えるため、髪型は苦手な美容院に行って相談し、服装はファッション雑誌を購入して勉強してイメチェンをした。
そしてようやく今の陽キャの立ち位置を確保した。

しかし、そのせいで最近アニメの話は全く出来ておらず、久々にアニメの話を出来る渋谷くんという友達が出来て興奮していた事は間違いない。

それにしても2人でライブだなんて本当にデートのようで緊張する。

まあ過ぎたことを後悔してももう遅い。気持ちを切り替えて明日を楽しむことにしよう。

部屋の電気を消灯し布団に潜る。目を閉じて明日を迎える準備が整った。

ただ、そこからどれだけ目を閉じていても眠りにつくことが出来なかった。
子供のころから遠足や旅行の前は気持ちが高揚して中々寝付けない子供だった。

それは高校生になった今でも健在。寝たい自分と明日を楽しみにし過ぎている自分が戦っている。

それだけゆいにゃんのライブが楽しみなのだ。

明日は遅刻しないといいけど……。



◆◆◆



目覚ましに起こされ目を覚ます。カーテンの隙間から刺す太陽の光が眩しくてもう一度目を閉じる。
いや、ダメだ。目を閉じてしまったら二度寝してしまう可能性もある。

起きたばかりで気怠さの残る体を無理矢理起こしカーテンを開けた。

お気に入りのカラフルなパステルカラーをしたモコモコパジャマはそろそろ薄手のものに変えないと流石に寝苦しさを感じてきた。

パジャマを脱ぎ下着姿になる。

部屋の鏡で自分の体を確認すると以前より太った様な気がした。
これは渋谷くんとファミレスに行っているせいだな……。
でも、ファミレスに行くという口実が無いと渋谷くんとアニメの話をする事は出来ない。

よし、体型のことは一旦忘れて体型を気にしないで済むようゆるっとした格好で行こう。

その方がライブ中も動きやすいだろうし。

普段は下ろしている髪を今日は後ろで1本に結び、前髪の両端には送り毛を作った。送り毛をヘアアイロンでくるくると巻く。

集合時間の10分前には駅に到着するよう家を出る予定だったが、渋谷くんも早めに来ているかもしれないと思い集合時間の20分前に駅に着くよう家を出た。

駅に到着し、渋谷くんがいないかを確認する。

あの改札前の柱にもたれ掛かかっているのは渋谷くんかな?

視力がそこまで良く無い私は目を細めて改札の前に居る渋谷くんらしき人を確認すると。
そこにいたのはやはり渋谷くんだった。

まだ集合時間の20分前だというのにすでに駅に到着している渋谷くんに驚かされながらも渋谷くんに声をかけ、無事に合流することが出来た。

通学の時は同じ電車に乗車しても、2人で一緒に乗車したことは無い。離れた距離でイヤホンを繋いでいるだけ。

今日は渋谷くんと2人で電車に乗る。

男性として意識しているわけではないけど、男性と2人きりで出かけるというのは初めての経験で緊張していた。

渋谷くんの額に滲む汗は、まだ上がりきっていない6月の気温から来ているのか、それとも女の子と2人でお出かけという状況に対する緊張から来ているのか。

後者であれば私も幾分か気持ちが楽になる。

予定よりも1本早い電車に乗り目的地へと向かう。背伸びしてギリギリ届く高さのつり革に捕まり、電車の揺れでこけないようにする。

背伸びという体制は長時間維持できるものではなく辛そうにしていると渋谷くんが、俺のカバンを持っていいぞと言ってくれた。

目的の駅までは30分かかる。それまで背伸びは正直厳しい。

私が今いる陽キャのグループの男性とは違う落ち着いた優しさを感じた。

少し緊張もほぐれてきたかと思ったそのとき。

渋谷くんがとんでもない事を言い放った。

「デートみたいだよなぁ」

え、やっぱり渋谷くんもそう思ってたの?

私も意識しないよう気を付けていたけど、この状況では意識せずにはいられないってことなのだろうか。

というか、その感情をそのまま口に出すって事は渋谷くんには余裕があるということなのだろうか。

林檎の様に真っ赤になっているであろう顔を隠すために下を向くことしかできない。

「や、やめてください。意識しない様に頑張ってたんですから……」

そこから2人が再び会話を始めるまでは少し時間がかかった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品