Bluetoothで繋がったのは学校1の美少女でした。

穂村大樹

第5話 初めてのライン

休み時間終了間際に楠木からラインでメッセージが送信されてきた。

「こんにちわ」という挨拶にこちらも「こんにちわ」と味気ない返信をして良いのだろうか。
それとも、何か質問を交えて返信をした方が良いのだろうか。

悩んだ挙句、返答が思い浮かばないまま休み時間が終了してしまった。
男子とラインをすることはあっても女子とラインをした経験は皆無。楓を女子と見るのであれば経験豊富なんだけど。

そう考えれば返信内容が思い浮かばないのも仕方のないことだろうと自分を納得させる。
しかし、女子とラインをした経験が無いという紛れも無い事実に多少の悲しみを覚えた。

送る内容も思い浮かばないし、次の休み時間にでも返信をすれば良いだろうと楽観的に考えていた。

そう思った矢先、俺の携帯のバイブが鳴る。

授業中とはいえ電源を切るわけではなくマナーモードに設定してあるため、通知音はならないがバイブの振動がズボンのポケットから伝わって来る。

授業中に通知が来るのは珍しいことではない。
ゲームや便利ツールなどから様々な通知が来る。

そんな通知を鬱陶しいと感じながらも、未だに通知をオフにしたり無駄なアプリを削除するといった作業は行なっていない。
やろうと思えばいつでも出来るのだが、面倒くさい作業は得意ではない。

何の得にもならない通知が来るのも、整理をせずそのままにしている自分の責任だ。

どうせまた自分にとって全くプラスにならない類の通知だろうし、画面を見る労力を失うと考えれば寧ろマイナスかもしれない。

とは言いつつも俺も最近の若者だ。授業中に携帯を弄るのはルール違反だと分かっていながら、なんの通知が来たのか気になりズボンのポケットに入っていた携帯を先生や周囲の生徒にバレないように素早く胸ポケットに入れる。
それから1分程経ち、誰にもバレていないことを確認しながらこっそり画面をのぞく。

一瞬見えた画面に表示されていたのはラインの通知だが、送り主までは見えなかった。

普段授業中にラインが来ることはない。

モカからか? いや、モカも中学校で授業を受けている時間のはず。
そうなると母さんからか? いや、基本母さんが俺にラインをして来るのは夜ご飯が必要かどうかを確認するときくらいで連絡が来るのはいつも昼過ぎだ。

胸ポケットから携帯を少し出し、誰からラインが来たかを確認する。

授業中にラインを送ってきた奴、その正体はさっきオタク友達になったばかりの楠木だった。

楠木は今同じ教室で授業を受けてるはず。携帯を弄ることが可能な時間では無い。

俺は教室の一番奥の後方の席に座っている。
教室の中央の席に座っている楠木は俺からよく見えるため、楠木の様子を確認してみる。

楠木はいつも通り、ただ普通に授業を受けているだけに見える。俺の席からは携帯を弄っている様子は確認できない。

可能性があるとすれば足と足の間に携帯を置き、こっそりとラインをしていると言ったところだろう。

背筋をピンと伸ばして右手でペンを持ち、左手は太もも付近にすんと置いている。

思わず見とれてしまうほど綺麗な姿勢からは、まさか授業中に携帯を弄りラインを送っているとは思えない。

楠木からは、

『渋谷くんはなんで日菜ちゃんが好きなんですか?』

と送られて来た。

俺が日菜を好きな理由を語り出したら止まらない。恐らく半日は日菜の魅力を話し続けられるのではないだろうか。

そんな理由をラインで伝えるのは不可能に近い。
しかも授業中で携帯を触りづらい今のこの状況では大量に文字を打つのは至難の技だ。

かと言って返信をせず既読無視をしてしまうのも心苦しい。

とりあえず、日菜の良いところをぎゅっとまとめて一言で表わすしかない。

授業中に先生にバレないように必死に打ち込んだ日菜の魅力をまとめた言葉は、

『めちゃくちゃ可愛い』

の一言だった。

ふぅ。ミッションクリアだ。

いつなの間にか額に浮かんでいた汗を手で拭きながら一息つく。

俺ですらたった一言を打つのに10分はかかった。

これでしばらくは楠木から返信が返って来ることはないだろう。

先生にバレないように背筋を伸ばし、わざとらしく慣れない真面目な姿勢をしていた俺の緊張の紐は一気にほどけ、棒が入ったように真っ直ぐに保たれていた背筋は一気に猫背になった。

机に突っ伏して休憩を始めた次の瞬間、胸ポケットに振動を感じ思わずビクッとなる。

机がガタンと声を上げ、クラス中の視線が一度こちらに向けられるが。何事もなかったかのように澄ました顔でやり過ごす。

こんな時、隠キャは便利だなぁと感じる。隠キャを便利だと感じる瞬間なんてそうそうないが。

もしかして、また楠木からラインか⁉︎

まだ俺が楠木に返信してから1分程度しか時間は経過していない。
まさか楠木な訳ないだろう。

恐る恐る胸ポケットに入れられた携帯の画面を見る。

やはり、通知は楠木からの返信だった。
こ、こいつ、授業中なのに返信が早すぎる。一体どのようにして授業中にバレずにこっそりと、このスピードで返信をしているのだろうか。

送られてきたラインの内容は、

『すごく可愛いですよね‼︎ あの、今日の放課後時間空いてませんか? もし良ければお話をさせていただきたいのですが……』

と言うものだった。

楠木の方からお誘いだって学校1の美少女と2人で放課後にお話?

なにそれ、完全にデートじゃん。

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