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第102話 結局、忘れる必要は
白太くんが舞台を去った後、すぐに玄人くんが舞台に上がってきた。
「すいません。通りがかりで教室の中から会話が聞こえてきたので……。今の会話、教室の外で全部聞いてました」
「……そう。惨めよね、私」
私は白太くんに好きだと言ってもらえた。それが白太くんの本当の気持ちではないにしろ、白太くんはまだ自分の本当の気持ちに気づいていない様子だった。
仮にあのまま私が白太くんに青木さんを追いかけるように促していなかったとしたら、私と白太くんは付き合うことになって白太くんもいつの間にか私のことを本当に好きになって……なんてこともあったかもしれない。
それなのに、私はこうして1人になった。本当に惨めだ。
「惨めなわけないじゃないですか。緑彩先輩は自分のことより白太の気持ちを優先した。自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先するなんて中々できませんよ」
玄人くんは柔らかい表情と優しい声で私を慰めてくれている。
玄人くんは後輩なのに、私はこんなところで弱い姿を見せるわけにはいかないのに、私の目からはスーっと涙が溢れた。
普段なら誰かの前で涙など絶対に見せない。でも、今はこの涙を我慢する必要は無いのかもしれない。ここは舞台の上。私がここで涙を流してもみんなは演技だと思うだけだ。
それに今は白太くんが青木さんを舞台に連れ戻してくるまでの時間を稼がなければならない。
私が涙を流せば多少ながら時間を引き伸ばすことはできるだろう。
「そんな大したことじゃないわ。私だって白太くんが本当に私のことを好きではないのに付き合うなんて不本意だしね」
「そう思えるのもすごいですよ。白太は友達の俺から見てもクズです。緑彩先輩と白太じゃ釣り合いません。きっとこの先、何倍も、何十倍も、何百倍もの良い出会いがあると思います」
これは白太くんたちが戻ってくるまでの繋ぎの演技だ。内容はどれだけペラペラでも構わない。
それなのに、玄人くんの言葉がやたらと心に染みる。
そうだ。私みたいな美少女に白太くんでは吊り合わない。私が白太くんと結ばれなかったということは、白太くんは私には相応しくない。もっと良い人が現れる。
何度もそう言い聞かせた。
それなのに、結局私の頭の中には白太くんの顔が思い浮かんでしまう。何度もその顔を振り払おうとするが、それでも白太くんの顔は頭から離れなかった。
「……そうね。でも私、自分で思ってたよりも未練がましいのかも」
「未練なんて誰だってありますよ。時間が解決してくれるはずです」
「時間ね……。確かにそうかもしれないわね。ありがと。玄人くん」
うん、分かった。
私は白太くんが好きだ。
たった今白太くんに振られたばかりだけど、私のこの気持ちはしばらく消えてくれそうにない。
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