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穂村大樹

第92話 気合、本番直前

部室に入るとすでに俺と蒼乃以外のメンバーが集合しており、俺より先にそそくさと部室の奥に歩いて行った蒼乃は紫倉と話し始めた。

紫倉と会話をする蒼乃の様子を横目で確認するが、先ほど醸し出していた「喋りかけるな」という雰囲気は消え去っていた。
さっきまでの雰囲気はどこへやら。山の天候くらいコロコロ変わってるぞ……。

そう思いながら部室の扉の前で立ち尽くしていると、緑彩先輩が俺の方に向かって歩いてきた。
緑彩先輩は俺の前に立つと俺の耳元に口を近づけ小声で話し始める。

「白太くん。私というものがありながら青木さんと文化祭を回るなんていい度胸してるじゃない」
「な、何故それを⁉︎」
「やっぱり……。図星なのね」

あーハメられた。

俺と蒼乃が一緒に文化祭を回っていたという確信は無かったのか。そうとも知らず焦ってボロを出してしまうとは……。
緑彩先輩は不機嫌そうに口を尖らせ、俺を睨んでいる。

やばいと焦る俺だが、それって嫉妬してたってことだよな……。と内心喜んでいる俺もいる。

こんな状況で悦に入っている場合では無いので俺は必死に釈明をした。

「ち、違います‼︎ これは違くて、蒼乃からそういう雰囲気を出されたので誘わざるを得なかったというか……」
「言いたいことはそれだけ?」
「いや、だから、ほんと違くて……」

もうダメだと言葉を失い俯いていた俺は無言になった緑彩先輩の表情を恐る恐る確認する。
すると、先程の不機嫌そうな表情とは打って変わってニヤーッと悪い笑みを浮かべていた。

「ふふっ。大体分かってるわ。白太くん、お人好しだものね」
「ちょっと、からかってたんですか……。本当やめてください心臓に悪いです。結構焦ったんですからね……」
「ごめんなさいね。別に白太くんが他の女の子と文化祭を回っていたくらいで焦ったりしないわ。だって私のこと、好きなんでしょ?」

本人から直接自分のことが好きかと聞かれると流石に答えづらいもので、返答に困る。

「ん? 好きじゃないの?」
「いえ、好きです」
「ならよし」

そう言ってニコッと笑うと緑彩先輩は部室の中央に行きパンパンッと手を叩く。

「みんな。今日まで練習お疲れ様。特にキツイって訳でもなかったでしょうけど、文芸部なんていう派手なことは苦手なメンバーが集まるであろう部活で演劇をやるって言う私のバカに付き合ってくれて本当にありがとう」

自分でも文芸部が演劇をすることが無茶だと感じているのに、それでも前しか見ないで突き進んでしまうのが緑彩先輩だ。
その無茶に幾度となく対応してきた俺たちだが、謝罪やお礼をされることは少ないので新鮮な気分だ。

俺たち部員からしても、その異常がもはや普通となっていたのだと実感する。

「確かに緑彩先輩は1人で突っ走ることが多いですけど、それを間違いだと思ったことは一度もありません」
「白太の言う通りです。緑彩先輩が作り上げた文芸部なんですから‼︎ やってやりましょう‼︎」
「そうね。自信もっていくわ‼︎ それじゃあみんな部室の真ん中の方に寄って肩を組んで」

そして俺たちは気合を入れるために大きな声を出し、文化祭の劇本番へと挑んだ。

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