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穂村大樹

第91話 急変、変化する雰囲気

蒼乃と一通り文化祭を見て回り、文芸部の演劇の時間が近づいてきたため俺と蒼乃はわたあめを口にしながら部室へ向かう事にした。

どれだけ悩んで頭を抱えていても蒼乃と一緒にいる時間は結局楽しい。
蒼乃も楽しんでくれている様子だったが、俺もこの後に待っている苦痛の時間を忘れてはしゃいでしまっていた。

「あーああ。やっぱり白太先輩と一緒にいるのは楽しいですね。部室じゃなくてこのまま2人でどこか遠くへ駆け落ちでもしますか?」

俺の前を歩いていた蒼乃は驚きの発言をしながらをこちらを振り返る。

「おい、別に俺たち親から結婚を反対されてるわけでもないしそもそも結婚とかしないからな。あと学校帰りにファミレス寄ります? みたいなノリでとんでも発言されても困るんだけど」
「軽いジョークですよ。これくらいジョークだって見抜いてください」
「ジョークならもっとジョークらしいテンションで言ってくれ」

いつもの天使の様に可愛らしく笑う笑顔とは違い、覚悟を決めたように目が座っている蒼乃の表情に思わず目が泳いでしまう。

蒼乃はジョークだと笑い飛ばしていたがこれは本当にジョークなのだろうかと疑ってしまうほどの圧を感じた。

「演技の予行演習ですよ。今から演技するんですから練習は大事でしょ?」
「演技に見えなかったわ。名演技だな」
「台本で決められたセリフに魂を込めるのは簡単なことではありません。だから練習は大事なんです。それが演者の本当の気持ちでもない限り」
「……? そんなもんか」

蒼乃の発言を理解することは出来なかったがそれ以降、先ほど文化祭を回っていたときとは打って変わって蒼乃は口を開かなくなった。

俺の前を歩いている蒼乃の背中を見ながら、急に静まりかえってしまい気まずくなった空気を変えるため声をかけよう前のめりになる。

しかし、蒼乃の小さい背中からは大きな圧を感じ、声をかけることが出来ない。

蒼乃の背中からは、「声をかけるな」とまでは言わないものの、いつもの様に気軽に声をかけられる雰囲気とは別の雰囲気が醸し出されていた。

先ほどまでの賑やかな雰囲気はどこへ行ってしまったのか。

結局俺は急に言葉を発しなくなった蒼乃の真意を知ることもできず、部室に到着するまで蒼乃に声をかけることも出来なかった。

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