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穂村大樹

第90話 彼女、2人で歩く学校

厨房の当番が終わった俺は教室の外で俺を待ってくれていた蒼乃と合流する事にした。

教室の扉を出て直ぐのところで壁にもたれかかって手を後ろで組む蒼乃の圧倒的彼女感が凄い。

「遅くなった。暇してなかったか?」
「さっきまで暇してましたけど白太先輩と一緒に文化祭を回れるって考えたら急に暇じゃ無くなりました」

ニコッと笑う蒼乃の姿に一瞬ドキッとしながらも、胸に何かがグサッと刺さる感覚を覚えた。

俺は今日、ここまで俺に尽くしてくれた蒼乃の事を正式に振らなければならない。

だが、緊張して鏡に写った自分に声をかけていた今朝と比べれば覚悟は決まっている。

勇気を振り絞って俺に告白してくれた紅梨のおかげだ。

「どこから回りますか? 私はわたあめ食べたいです‼︎ さっき白太先輩の教室に来る途中で見かけたんですよ。後で先輩と一緒に食べよーって思ってその場では買いませんでしたけど」
「そうか。じゃあさっき買うのを我慢してくれたお礼にわたあめは俺の奢りだ」
「え、いいんですか⁉︎ やった‼︎」

無邪気に喜ぶ蒼乃の姿を見て俺が得た満足は蒼乃が喜ぶ姿を見てなのか、それとも蒼乃に対する謝罪の意味を込めた奢りをする事が出来る安心感なのか。

そんな事ばかりが頭の中を駆け巡り文化祭を心の底から楽しめていない自分が心底嫌になる。

自分で覚悟を決め、紅梨にも玄人にも背中を押してもらったと言うのにまだ不安なのか。

どんだけチキンなんだよ俺は……。

「あーもう吹っ切れた」
「え、急にどうかしましたか?」
「……なんでもない。独り言だよ」

心が決まらないなら、と俺は一度全てを忘れる事にした。

それに加えて、吹っ切れた、と言葉にする事で自分の気持ちを再確認した。

「そうですか。というかよく考えたら白太先輩と2人で学校の中をこうやって歩くのって初めてに近いんじゃないですか?」

そう言われてみればそうかもしれない。

蒼乃と付き合いだした頃は俺たちの関係を秘密にしていたし、俺達の関係が皆に知れ渡ってからも蒼乃と学校で過ごすのは部室でくらいだった。

「そうかもな」
「ふふっ。なんか嬉しいです。こうして堂々と学校の中を歩いていると白太先輩との関係を見せびらかしているみたいで」
「見せびらかすってお前な……。俺と一緒に歩いているところなんか見せびらかしても誰も羨ましがらないぞ」
「そんな事ないですよ。私の同級生の間でも白太先輩は優しそうだってみんな羨ましがってますよ?」
「優しいってのは褒めるところがない人を褒めるときの決まり文句だ」
「もうっ。そんなに卑屈にならなくても良いのに。でも、今がすごく幸せです。ずっとこんな時間が続けば良いのにって思っちゃいます」

そう言いながら遠くを見つめる蒼乃にかける言葉が見つからず、そうだな、と相槌を打つ事しか出来なかった。

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