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穂村大樹

第69話 提案、意図があるとは知らず

合宿を終えてからも俺たち文芸部は普段通り放課後になれば部室に集まり、本を読んでは感想を話しあったり世間話を繰り広げていた。

何気ない日常のを過ごせるのは幸せかもしれないが、一つだけ気がかりな事がある。

蒼乃と会話をする回数が明らかに減っているのだ。

部室で6人で会話をすることはあっても蒼乃が直接俺に話しかけてくる事は無い。今まではうざいと思うくらい話しかけられていただけに、急激に話しかけられなくなるのも落ち着かなかった。

話の流れでどうしても俺と会話しなければならない時は、「あーそうですねー」と棒読みで心を殺して話している。

この状況は俺の緑彩先輩に対する告白を蒼乃が目撃してしまったからだが、俺はまだ蒼乃を振った訳ではない。

いや、振ったも同然である事はよく理解しているが、蒼乃に直接別れようと伝えてはいない。

そのせいもあり俺と蒼乃の関係は曖昧なままになっていた。

緑彩先輩と付き合うためには、蒼乃に俺の気持ちを伝え、別れなければならない。
しかし、改めてそう言うのも酷な気がして踏み切れないでいた。

蒼乃と気まずい関係のままなのであまり部室に来たくはないのだが、蒼乃の方も恐らく同じ気持ちで、気まずさを我慢して部室に来ているのだから、俺の方から部室に来なくなるわけにもいかない。

そんな憂鬱な気持ちを抱えながら今日も部室で6人全員で本を読みながら感想を言い合ったり、世間話をしたりしていた。

すると紅梨が耳打ちで俺に話しかけてくる。

「蒼乃ちゃんと何かあったの?」

今まで蒼乃と楽しそうに話していたのに、急に会話をしなくなればこう言う疑問を持つのが当然だ。

「んーまぁなにもなかったって言うと嘘になる。理由は話せないけど」
「ふーん。じゃあアタックしてもいいんだ」
「ん? アタックってなんの話?」
「なんでもない。でもどうするの? 何かあったから、仲直りしないと行けないんじゃないの?」
「それも中々難しい状況でな……」

流石に緑彩先輩に告白したところを蒼乃が目撃して、それが原因で蒼乃と不仲になってしまったと正直には言えない。
そして俺を悩ませる事案がもう一つある。

「よし、それじゃあ文化祭の出し物を決めるわよ‼︎」

そう、文化祭だ。

文化祭ではクラスの出し物の他に部活でも出し物を考えなければならない。

それはただでさえ部室に来づらい俺にとって、その回数が増えると言う地獄なのである。

先輩の俺がなんとかして蒼乃との気まずさを解消しなければならいのかもしれないが、どうしようもないって……。

「今年は何するんですか?」
「文芸部の出し物っていつも微妙なのよね。私たちがお勧めする本を紹介とかしてきたけど。やっぱり中々観衆の目に止まらないのよ。だから何か新しいことをしたいなとは思ってる」

確かに、文芸部の出し物は毎年地味なものばかり。

「なるほど……。何か私たちが読んでる本の魅力を分かってもらえればいいんですけど」

特に良い案が思い浮かばない中、唐突に玄人が話し出す。

「じゃあ演劇とかどうっすか?」

……演劇? 文芸部が? そんなのありえない……。

「それだわ‼︎」

緑彩先輩はどうやらピンときてしまったようだ。

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