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穂村大樹

第51話 合宿、波乱の予感

緑彩先輩が合宿をしようと言い始めてから約2ヶ月、俺たちは合宿に向けて着々と準備を進めてきた。

今回の合宿は本をひたすら読み続けるという目的の他に親睦を深めるという目的もあるため、晩飯は何を作るか、何をして親睦を深めるかなどを入念に考えた。

そして今日、ついに合宿当日を迎えた。いや、迎えてしまったと言うべきなのかもしれない。

合宿自体は割と楽しみでもあるし、短い学生生活の中で良い夏の思い出になるだろう。

しかし、緑彩先輩と蒼乃が一緒にいる空間で1泊2日の日程を消化する事に対しては不安しかない。
出来るだけ厄介ごとに巻き込まれないよう気を付けよう。

それにしても、合宿はなぜ夏に行うのが定番なのだろうか。このクソ暑い時期に無理をする必要はないだろうに。
このご時世、熱中症で倒れるだけでニュースになるのだから、日差しが弱まる秋に合宿をするのがベストだろう。

まあ俺たちは文芸部なので、クーラーがガンガンに効いた部屋の中で合宿が出来るし関係ないけど。

俺たちは緑彩先輩の別荘の最寄駅に到着し、別荘に向かって歩みを進めている。

「合宿ですよ合宿‼︎ テンション上がります……ってあれ、なんか白太先輩元気なくないですか?」

あー、俺の横にもう一つ熱々の太陽が。

ただでさえジリジリと俺たちを焼き殺すかのように照りつける太陽が邪魔くさいというのに、これじゃあ余計に暑いと感じてしまう。

「そりゃ元気があるわけないだろ。こんなに暑いってのに蒼乃は元気だな」
「いや、合宿ですよ? 誰だってテンション上がりますよ‼︎」
「誰だってテンション上がらねぇよ。上級生である緑彩先輩の落ち着きを見習ってだな……」
「白太くん、今日は待ちに待った合宿よ‼︎ ワクワクするわね、ワクワクするわね‼︎」

……2回言ったよこの人。同じこと2回言ったよ。この人も熱々だわ。太陽3つ目いただきました。

よく考えてみればこの合宿の発案者は緑彩先輩だからテンション上がらないわけないか。

流石に3つの太陽に囲まれたら溶けるぞ。

頼みの綱は紅梨しかいない。いつものクールなテンションで俺を冷やしてくれ……。

「ほんと、合宿ってだけでそんなにテンション上がらないよ。いつもとやることは変わらないじゃん」

あ、うん。期待通りだわ。期待通りなんだけど、ここまできたら4つ目の太陽に登場して欲しかった感もあるわ。ないものねだりですね。

4つ目の太陽とは言わないが、玄人と紫倉は相変わらずの熱々ぶり。玄人が汗をかいているとタオルで拭いてあげたり、日焼け止めを渡してやったりと最早夫婦の貫禄すら漂っている。

「紫倉はさ、玄人の嫌いなところとかないの?」
「うーん、嫌いなところも含めて好きっていうんですかね……。そこまで気にならないんですよ」

うん、これはもう熟年夫婦ですわ。こいつらは絶対結婚する。

「白太先輩は蒼乃の嫌なところとかないんですか?」
「いや、もう嫌なところなんて一つもないね。俺にはもったいなすぎて誰かに譲ってやりたいくらいだよ」
「そうですか……。って事は好きなんですか?」
「……は? いや、一応付き合ってるし好きだけど」
「ならいいですけど」

紫倉からの質問に面食らいながらも、蒼乃のことが好きだと返答することが出来た。
蒼乃は紫倉に俺と付き合った経緯を説明してあると言っていたが、好きでもないのに付き合っているとは言いづらいからな……。

幸先は良くないが、1泊2日、乗り切ろう。

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